映画化が話題、押切蓮介の超絶ホラー『サユリ』。平穏な一家に襲いかかる恐怖...原作の魅力に迫る
更新日:2024/9/19
つい最近まで心霊現象を信じていなかった。「霊感がある」という友人の言葉を聞いて「気のせいじゃないかな……」と心の中で感じていたし、幽霊も見たことがない。そんな私の認識を覆す出来事が二度、数週間前に起きた。昼寝をしようと横になっていると「おい」と男の声がする。強盗かとあわてて周囲を見回したが誰もいない。その数か月後、同じ寝室で、夜、なかなか眠れずに寝がえりをうっていると、「どうですか」と女の声がした。どちらの声もはっきりとしていて、寝ぼけていたわけではなさそうだ。
「何なのだろう」と思っていたころ、『サユリ』(押切蓮介/幻冬舎コミックス)という漫画に出会った。大ヒットした『ミスミソウ』(押切蓮介/双葉社)と同じ押切蓮介さんの描いた、家を舞台にしたホラー漫画だ。家にまつわるホラー作品は多数ある。とはいっても、ここまでストーリー、展開、ショッキングなシーンと、ホラー作品に求められるすべての要素が詰め込まれている作品はほかにないだろう。また、『サユリ』はそれだけではない。最後まで読むと、本作にはメッセージ性があることに気づかされた。とても怖くて悲しいけれども心に沁みる、ほかに例を見ない漫画なのだ。そんな本作が、今年8月に映画化されると耳にしたとたん、「絶対に忘れられないホラー映画になる」と確信した。
あらすじを説明したい。物語は、幸せな7人家族が、待望の一戸建てマイホームに引っ越してくるところから始まる。主人公は家族の一員である高校受験をひかえた神木則雄だ。家族に最初の悲劇が襲いかかるのは引っ越してすぐのことだった。まずもっとも新しい家に期待していた則雄の父親が変死し、次に則雄の姉が何かに怯えてやつれていく。祖父もまた不穏な気配を漂わせ、家族はひとり、またひとりと死んでいく。
この家族は何も悪いことをしていない。それなのに家の中やその周辺で、惨たらしく死んでいく。あまりにも理不尽だったので、「実はみな生きているのでは」と期待したが、彼らの命は戻ってこなかった。悲劇を招いた「サユリ」は、家の中にいる。どうしてこのようなことをするのだろうか。家族のうち、死んだ5人と残されたふたりは何が異なるのか。これから読む人は、次々とページをめくりたくなる気持ちをおさえて、ひとつひとつの場面をゆっくりと見てほしい。本作は推理要素もあり、多数の場面に伏線が張られているからだ。
終盤、その伏線は回収されて謎は解き明かされる。面白さのあまり読むのが止まらなくなってしまった場合は、恐ろしさに耐えてもう一度、二度と読んでほしい。そのたびに新しい発見があるはずだ。何度読んでも怖さは薄れないので、ホラー好きの読者も安心してほしい。だんだんと本作はホラーというジャンルを超越して、生きていくうえで大切なものは何かを気づかせてくれる。
漫画を読んだ後、自分の実体験を思い出した。私の聞いた声ももしかして……そう思いながら部屋を出た時、「あっ」という女性の声が聞こえた。私の家にも「サユリ」はいるのかもしれない。生きているうちに、漫画に続いて映画『サユリ』も見たいと思うほど、私は本作に取りつかれてしまった。
文=若林理央
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