「声優って幸せ?」現役敏腕マネージャーが業界のリアルを描く!『声優白書』
公開日:2024/9/8
ここ数年、声優という職業はすっかり大人気になりました。
声の仕事のみならず、ドラマやバラエティに引っ張りだこの津田健次郎さんを筆頭に、情報番組やCMで、本来声だけを聴くはずの声優さんを毎日のように見かけます。それほどまでに人気があり、声優という職業が注目されているということでしょう。
私自身、声優さんが好きで、そのプロフェッショナルな仕事ぶりに魅了されているひとりです。知人にアニメ関係者が多いのですが、ある日手に取ったのが『声優白書』(懸樋流水/幻冬舎)。とある声優事務所の現役マネージャーが執筆したという、ノンフィクションのような完全フィクション作品です。
本作の舞台は、大手老舗声優事務所・赤坂事務所。200人以上の声優が所属するその事務所に在籍する、伝説の敏腕マネージャー・神野慶太が物語の中心人物です。事務所に所属している声優や、「預かり」と呼ばれる新人声優たちの相談にのっている彼のもとには、日々悩みや迷いを抱えた声優たちがやってきます。彼と声優たちの対話を通じて、声優とは何か、彼らの仕事とは何か。表現とはどんなものなのか。抱える問題が、描きだされます。
声優志望・現役必見!繰り広げられるリアルな対話
そもそもこの作品に登場する人々は、大手事務所の狭き門をくぐって声優になっている人ばかり。しかし、才能があると認められたそんな人々にも悩みは尽きないようです。声優が気になる、なりたいという人はぜひ読むべき、と思う、リアルで勉強になる対話が次々に飛び出します。
非常に役立つ反面、もしかしたら、現時点ではよくわからないと感じるかもしれません。しかし、実際に声優という夢を叶えたときや、数年経って読み返したときに、急にわかったり、求めていた答えが見つかったりすることもあるはずです。
白書とは、英語で「white paper」。政府が国民に、国政の現状と課題を報告書の形で示す公文書の意味を持ちます。まさに、声優志望の皆さんにとっては、おのれの現状、業界の状況を指し示す白書となる一冊でしょう。
声優の仕事は一般的に考えられているより多いもの
もちろん、声優とアニメ作品のファンが読んでも楽しめ、勉強になります。
声優の世界はかなり特殊です。特に実は仕事の種類が多いことはあまり知られていません。アニメのキャラクターに声を当てる、外国映画の吹替。おそらくぱっと声優としてイメージされるのはこの2つでしょう。しかし、CMやナレーション、企業の作るプロモーション映像、電車やバスの音声アナウンスなど、声を使ったあらゆる仕事を、声優は担います。
我々は、声優は「なんでもできる」と思いがちです。しかし、実は仕事内容はかなり細分化されているようで、「えっそうなんだ!」ときっと驚くはず。
声優は職業のひとつです。私が仕事をする大人として非常に刺さったのは、新人声優・五月女凛(さおとめ・りん)が登場する章でした。
大学の劇団で経験を積んで事務所の「預かり」になった彼女は、アニメに出たいという希望を持っています。声優になれはしたものの、アニメや外画(海外制作の映像作品)の芝居がどうしてもしっくり来ない。事務所に残るためにはどうしたら良いかと悩み、神野マネージャーに相談を持ち掛けます。結論として、「やりたい仕事」と「向いている仕事」が違うことが判明。最終的には事務所に残るために、向いている仕事を選びます。
誰だって、好きなことを、楽しいことをやりたいものです。しかし、好きなことと向いていることが異なるという事態はままあります。その中でどうやって折り合いをつけていくのか……。お金をもらう以上、誰もが平等に「プロ」です。厳しい言葉ですが、誰にも当てはまる、大切な考え方のひとつではないでしょうか。
親しみがあって遠い存在……声優の努力の積み重ねを感じる
アニメが世界中で身近になった近年、とても親しみがあると同時に、どこか違う世界の職業である声優。私たちが見ているのは華やかな側面や、輝かしい部分がほとんどです。しかし表現者として、彼らにも悩みや苦しみ、様々な葛藤があることを知り、その日々の積み重ねを垣間見ることができる本作。読むだけで、自分の背筋も伸びる気がします。
文=宇野なおみ