「誰だってナポレオンになりたいんだ」成り上がり、皇帝に上り詰めた“英雄”と愛憎渦巻く男たちを描く『ナポレオン -覇道進撃-』やみつき必至の魅力
PR 公開日:2024/9/6
「事実は小説よりも奇なり」という言葉がある。歴史に名を残した人物たちのドラマチックなエピソードは、ときに創作のキャラクターを超えることもある。
ナポレオン・ボナパルトはフランスに支配されたコルシカで生まれ、そのフランスの革命後に成り上がって皇帝の座に就く。そして大国との戦いの末、ついに欧州の覇者となる――。まるでマンガの主人公のようだ。多くの方は、詳しく知らなくても名前くらいは聞いたことがあるはずだ。
そんな彼の生涯を描いたマンガが『ナポレオン -覇道進撃-』(長谷川哲也/少年画報社)である。
前作『ナポレオン -獅子の時代-』15巻までで英雄の幼少期から青年期を描いた長谷川氏は、本作では欧州中を進撃して覇道を歩むナポレオンの、輝かしくも型破りな活躍で迎えた黄金期を描いてきた。22年もの長きにわたる連載が完結したばかりの、西洋大河ロマンの魅力を紹介していく。
神に、味方に、敵にすら愛された皇帝・ナポレオン
1799年11月9日の「ブリュメールのクーデター」の後、ナポレオン・ボナパルトはフランスのトップである第一執政となっていた。フランスの支配者になった彼はクーデター以前の体制を支持するジャコバン派や、革命前のブルボン王朝を復活させようと目論む王党派に命を狙われもした。だが当時のナポレオンを倒せる者は、国外にすらなかなかいない。彼は大局でみて、負けることはなかった。まるで神に愛されたかのように。
1804年には、ついにナポレオンはフランス皇帝となる。フランス第一帝政の始まりである。
史実の通りの血なまぐさい戦争を描いていく物語である。歴史に名を残す男たちも、名も無き兵士たちも無慈悲に死んでいく。それでも兵士たちはみんな、皇帝となったナポレオンが好きだ。味方の兵士たちは「自分たちは地上最強!」「皇帝万歳!」とシュプレヒコールを上げてナポレオンに忠誠を誓い、戦う。
ナポレオンは敵にすら愛されていた。アウステルリッツ戦役の直前、あるロシア兵が「ナポレオンを英雄視する者はロシア軍にも大勢いる」と言い、こう続けるのだった。
コルシカの貧乏人が革命でのし上がり フランスを守りぬいて ヨーロッパの英雄だ すごい
誰だって憧れる 俺だってナポレオンになりたい
みんなナポレオンになりたいんだ 男なら当然だ
神にも味方にも敵にも愛され、戦いに勝利し、欧州のほとんどを支配するようになったナポレオン。それはもはや、人智を超えた“怪物”であった。ナポレオンを支えた重臣のひとり、タレイランは「怪物の行く末なんて歴史を見りゃわかりそうなもんだろ」と呟く。
極めた栄華とは、永遠には続かないのである……。
最終27巻発売! 戦い続けた皇帝と仲間たちの生き様と最期とは?
私たちは、教科書や歴史資料でナポレオンのことを知ることができる。彼の栄光と勝利を。そして敗北と没落を。
本作は、大筋では史実に沿ったナポレオンの生涯を追っている。ただ『ナポレオン -覇道進撃-』は単なる“年表”ではない。彼が行ったことが描かれているから魅力的なのではなく、前述した通り全てに愛された男の、言葉を、行動を、感情を描いているのが魅力なのだ。
さらに、読んでいくと彼に惹きつけられるのはもちろん、彼を愛した(あるいは憎んだ)、男たちにも心を揺さぶられる。
ナポレオンの親友のランヌ元帥、“不敗”と称されたダヴー、命知らずの“勇者”ネイ、女好きで憎めない性格のミュラ、個人的には癒しになった好漢・マルボもいた。獅子身中の虫となるタレイラン、フーシェもまた不思議な魅力がある。
皆、歴史にも名を残した人物たちだ。キャラクターとして気になったらぜひ彼らを調べてみてほしい。さて本作で忘れてはいけないのが、ビクトルだ。本作を未読の方は、この名前を憶えておこう。架空の軍人ではあるが、物語を最後まで見届けることになる、愛すべきキャラクターのひとりだ。彼はナポレオンと共に歩み、生きて、戦い、死んでいくのだ。
かの「ワーテルローの戦い」が描かれて物語はクライマックスを迎え、ナポレオンにも最期の時が迫る。22年の連載のラストは、いったいどのようなものになるのか。ついに最終27巻が発売された本作の万感の終幕を見届けてほしい。
文=古林恭