赤い夢へようこそ。

これは、児童文学作家・はやみねかおるさんの座右の銘。以前、ダ・ヴィンチWebの取材でその言葉の意味について尋ねたところ「ぼく自身、いまだに赤い夢のなかで遊んでいるような感覚なんですよ。本格ミステリーの世界を味わっているときの純粋なドキドキや、くらーいところに引きずり込まれそうになるような感覚、そういうのを全部ひっくるめて“赤い夢”って言ってるのかなあ、と思います」と語っていた。自分が今生きていると信じる現実は、もしかしたら永遠に醒めない夢なのかもしれない。一生、幻から抜け出せないかもしれない――そんなほのかな昏さをともないながら、抜け出せなくともかまわないと思ってしまうほど謎と遊びに満ちた世界を、はやみねさんは読者に提供し続けてきた。

そんなはやみねさんが還暦を迎えた今年、ついに初の公式ファンクラブが発足した。その名も「赤い夢学園」。事前に行われたオンライン学校説明会には1000名以上の申し込みが殺到という、講談社のポータルサイト「コクリコ」史上最高の盛り上がりをみせたという。

はやみねさんのファンは、実は、20～40代にとても多く、作家の朝井リョウさんをはじめ、影響を受けたと公言する出版業界人も数えきれない。ダ・ヴィンチWebでロングインタビューを掲載したときも「子どもの頃、大好きだった！」「今も忘れられない作家さん」と声を上げる人たちが、作家に限らず、SNSにあふれかえっていた。不思議だった。これほどまでに多くの人から愛されているのに、なぜこれまでもっと大々的に話題になることがなかったのだろう。雑誌でのきなみ特集を組まれてもいいくらいである。

だけど、理由がわかるような気もするのだ。キャラクターがさまざまに冒険する児童文学であると同時に、本格ミステリーの香り漂うはやみねさんの作品は、多くの人にとって物語の入り口であり、そして大事な友達だった。何物にも縛られないキャラクターたちの自由さに憧れ、自分もそうありたいと夢中になった。同時に、自分のなかにある心の影に気づかされ、赤い夢にもとらわれかけた。その記憶を、自分だけのものとして、大切にしまっておきたかったのではないか。あるいは、言葉にする必要なんてないくらい、あたりまえに存在し続けていたのではないか。

いつのまにか、はやみねさんだけでなく、小説を読むことからも遠ざかってしまったという人は多いだろう。だから、今こそ、胸の内側にしまっていたその記憶を、もう一度とりだすときなのだ。はやみね作品の登場人物が冒険するのは、ありふれているように見える日常。わくわくすることをつい忘れそうになっている大人たちこそ、今一度はやみねさんの描く作品の中に飛び込み、そして赤い夢学園の生徒となり、あの頃の自分に出会い直してみてはどうだろう。

オンライン説明会では、はやみねかおるさんが校長先生として登場。視聴しているファンから「定期テストはありますか」「文化祭をやってみたい」などさまざまな声が寄せられた。もともと学校の先生だったはやみねさんの専門である、数学の授業をやってみてはどうだろう？という意見も。実際、夢水清志郎というキャラクターは、常識はずれの名探偵でありながら、もともとは大学で数学を学んだ元論理学の教授である。ただ公式を使って数式を解くのではなく、事象を論理的にとらえなおす、はやみねさん作品の原点に迫る授業を受けることができたら、楽しそうだ。

赤い夢学園に、校則はない。入学資格はただひとつ。はやみね作品を愛していること。すべての作品世界が一つにつながり、キャラクターたちが縦横無尽に暴れまわる赤い夢のなかに、読者である私たちも飛び込んで、一つに繋がっていく。そのためのイベントも、今後目白押しであるようなので、ぜひまずは校門をくぐってみてはいかがだろうか。

文＝立花もも

【赤い夢学園とは】

はやみねかおる公式ファンクラブ「赤い夢学園」は、子どもから大人まで誰でも無料でご覧いただけるファンサイト。「赤い夢学園」の校長はもちろん、はやみねかおる先生！

学園の活動をより深く楽しみたい方のために、月額（税込550円）と年額（税込11,000円）の2つの有料会員コースが用意されている。年額の「プレミアムプラン」は、限定の特典グッズ3点付き。 （学生証カード/ロゴトートバッグ/はやみねかおる先生直筆サイン入り入学許可証）

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