『じゃあ、あんたが作ってみろよ』の著者最新作、テーマは「発酵食品」失敗ばかりの2人が出会い、お客ゼロの居酒屋を立て直すヒューマンドラマコミック『まめとむぎ』

マンガ

PR 公開日:2024/9/26

まめとむぎ 1
まめとむぎ 1』(谷口菜津子/双葉社)

今夜すきやきだよ』『じゃあ、あんたが作ってみろよ』など数多くの「食」をテーマにした作品を描き続けている谷口菜津子先生の最新作『まめとむぎ 1』(谷口菜津子/双葉社)は「発酵食品」を題材にしたヒューマンドラマである。

 ファッション雑誌の編集長を夢見ていた主人公の麦が、自己主張の強さという性格的な理由で編集長になれなかった上に、前編集長との不倫が表沙汰となり退職して引きこもってしまうところから物語が始まる。

まめとむぎ 1

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 そんなある日、かつて食事したことがあった老夫婦が営む居酒屋「大豆堂」に足を運んでみると、あざとかわいい系女子・マメが店主となり塩麴をはじめとした発酵食品を取り入れた居酒屋へと変わっていた。ガラリと変わった店構えとマメのキャラクターに困惑しながらも、そこで食べた料理に麦は魅了されていくのであった。

 麦は料理にだけ惹かれたわけではない。マメはあざとさがあるものの、人に媚びたりせず自信に満ち溢れており「発酵」の面白さと美味しさをひたすら追求するし、底抜けに明るい。その陽気さがどん底にいた麦の心も照らしてくれる。そこにも大きな魅力があったのだ。

まめとむぎ 1

 また本編にはこれまで様々な食事シーンを描いてきた谷口先生の手腕が発揮され「さすが!」と思う美味しそうな料理の描写がちりばめられているのも見所の一つと言える。

 ここ数年の外出の規制等の理由で久しく外食する機会が減っていたのだが、本作を読んでいると食欲をそそられるとともにお店で食べる時の雰囲気の良さが伝わってきて、どこかへ食べに行きたいな、というワクワクした気持ちが湧いてくる。

まめとむぎ 1

 食事は心身を満たしてくれるハッピーな時間であった方がいいよね、と感じさせてくれた。塩麴で漬けた食材を使用したチキン南蛮や刺身のサラダ等が登場しているが、今後さらにどんな発酵食品料理のレパートリーが増えていくかも楽しみだ。

 勿論、料理の描写のみにとどまらずストーリー上の人間模様にも見応えがある。

 発酵に対してマメが「出会いで魔法みたいな変化が起こるのが好きでたまらないの!」と熱弁するのだが、これは発酵に限ったことではなく人間関係にも同じことが言える。

 自分の人生はもう腐りきっていておしまいだと思っていた麦が、まるで違う性格のマメと出会い、麦自身の内面やお店の様子が変化していく様はまさに化学反応を目の当たりにしているようで面白い。そして回を追うごとに新たな人物との出会いや、麦と因縁のある人物との再会もあることだろう。どんな局面に立っても、最後まで腐らずに粘り強く変化を見せてほしい。

 日常生活で何かと上手くいかず嫌になって腐ってしまう時があったら、本作を読んで「今、私は発酵中なんだ!」と気持ちを前向きに切り替えてもらいたい。

 食べ物は腐ってしまうと食べられなくなり捨てられてしまう。しかし人は腐っても生き続けている限りやり直せるのだ。これから様々な人や物事に出会い、時には美味しいものを食べながら「発酵」し続けて自身の人間味を深めていこうではないか、そう読者に語り掛けてくれているような作品である。

文=ネゴト /

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