「この女神たち…チョロすぎる?」国を滅ぼされたツンデレ少年王子が、ポンコツ女神たちと復讐スタート! 神話ファンタジー『女神の子』
PR 公開日:2024/9/17
神話に登場する神は人間臭い。
彼、彼女たちは理知的で慈悲の心をもち寛大である一方、こちらが思うよりも欲望に忠実で、嫉妬深く、野性的で、怒りっぽいところもある。だから、神話は下手なメロドラマよりドロドロしていたりするのだ。
人間以上に人間臭い神々と、人が入り乱れて戦う異世界ファンタジーコミック『女神の子』(田中ほさな/少年画報社)の第1巻が発売になった。
物語は、とある王国が襲われるところから始まる。王子イタカ・モンフェラートは父や臣下を殺されたうえ、母である女王シビーユを攫われて自身は凶刃に倒れてしまう。だが、彼の魂は天に向かう途中で女神アテナによって呼び止められ、復活する――。
本作で描かれるのは、亡国の少年王の、復讐と“美”をかけた戦いだ。そこにはハードなバトルやシーンがあるものの、ちょっと笑ってしまう絶妙なコメディタッチで飽きさせない。田中ほさな氏の美麗な作画もポイントである。
ポンコツ女神たちに愛されたツンデレ少年王イタカの復讐劇
ラテン王国のイタカは王家の跡取りとして、生まれつき病弱であること以外は、何不自由ない暮らしを送っていた。しかし、ある日侵攻してきた王太子サラーフ・ディーン率いるサラセン国の軍勢により、彼の国は一夜にして滅んでしまう。イタカもその場で一度は命を落とすが、女神アテナにその身と魂を委ねて蘇る。剣も振れなかった脆弱な彼は、女神の身体を得て一刀のもとに複数人の敵を切り捨てられるような強さを得た。言ってみればチート転生である。こうしてイタカは、亡国の王となった自分の尊厳と、攫われた母・シビーユを取り戻すことを決意するのだった。
大まかなあらすじを書くと構造はシンプルだ。少年が復讐のために戦い、成長し、旅をするいわゆるジュブナイルストーリー。そこで、物語を盛り上げるのは登場キャラクターたちだ。イタカは賢く生意気な少年である。ただ、母や自分の臣下を守るために命をかけられる勇気ももっている。また、しっかりかつての自分の貧弱さに悩んでもいた。口は悪いが優しく、笑顔が可愛いツンデレ少年王なのだ。
彼の笑顔と少年なりの“男らしさ”にやられてしまうのが女神たちだ。この世界には、人の前に女神が現れることがある。イタカの命を救った智の女神・アテナは、見た目はもちろん人間離れした美しさをもつが、神としての余裕に欠けるところがある。イタカの毒舌にショックを受けて落ち込んだりもするのだ。彼はそんな彼女にこう言って微笑む。
女神ってもっと神様らしいと思っていた
ちょいちょい「愛いわ(ういわ)」とつぶやき、彼にキュンキュンするアテナ。威厳よりも俗っぽさ満点の女神だ……。このあと女神ヘラ、女神ヘルメスも登場するが、彼女たちもアテナと同様にイタカのツンデレ具合と、母親譲りの美しさと、王としての器にコロッといってしまう。この世界の女神……チョロすぎ?
何はともあれ、女たらしならぬ女神たらしのイタカと、どこかポンコツな女神たちは憎きサラーフ打倒を目指す。サラセン国にはイタカの母と、この争いを起こした張本人、女神のアフロディーテがいた……。
神と人との、“美”を巡る世にも醜い戦い
物語序盤では、まだまだ多くの謎が明らかになっていない。なぜ女神アフロディーテがサラセン国にラテン国を攻めさせたのか。そして、なぜ女王シビーユを攫わせたのか。「女神による美の審判の報酬」というのがキーワードのようである。女神アテナとヘラは、イタカの助けになるものの、その裏でサラーフへの異様な敵意をみせる。はたして彼女たちとサラーフの間に何があったのか。
イタカはアテナから、ラテン王国が複数の大国と秘密裏に“神聖盟約”を結んでいたことを聞く。盟約書には、国々が「イタカが戦うその目的をサポートしなければいけない」理由が書いてあった。
国々は“女の美”を守るために戦わなくてはならなかったのだ。
ネタバレになるため詳細は書かない。ただ、この内容は子どもすぎるイタカには納得できなかった。いずれにしろ彼の孤独な復讐劇は、周辺諸国を巻き込んだ大戦争になっていく。この展開は、すでに物語を暗示していた第一話の1ページ目に繋がっていくので、ぜひ読み返してみてほしい。
神と人の、“美”を巡る世にも醜い戦いの結末を、見届けてみてはいかがだろうか。
文=古林恭