アニメ放送決定で再熱中、未完の魔法少女マンガ。累計60万部、絶筆となった藤原ここあ作の名作『かつて魔法少女と悪は敵対していた。』

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公開日:2024/9/20

かつて魔法少女と悪は敵対していた。"
かつて魔法少女と悪は敵対していた。』(藤原ここあ/スクウェア・エニックス)

 2015年3月31日、ひとりの若き漫画家が突然この世を去った。藤原ここあ氏、享年31。人気作品『妖狐×僕SS』の作者であり、その切ない作風や繊細かつ美しい絵柄で多くの読者の心を掴んだ人物だ。連載中だった『かつて魔法少女と悪は敵対していた。』(通称、まほあく)は絶筆となり、ファンたちは早すぎる死を嘆いた。時は経ち2024年の今年7月、未完の遺作である「まほあく」のアニメが放送開始された。この機に、原作の魅力を振り返ってみよう。

 物語は、悪の組織の参謀であるミラが、敵対する魔法少女・深森白夜に一目惚れするところから始まる。冷酷で残虐と恐れられているミラだが、白夜に出会ったことで態度が一変。手土産を持って彼女のもとを訪れたり、贈り物をしたりと、悪らしからぬ行動をする。白夜もミラの優しさに心を開き、ふたりの関係は次第に深まっていく。

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 魔法少女の白夜は、施設育ちで苦労人の女の子。生活のため、魔法少女と掛け持ちでアルバイト三昧の日々を過ごす薄幸の美少女だ。ほんわかした雰囲気を持ちつつも表情に乏しく、ミラ以外にはあまり顔色を変えない。だからこそ、ふとしたときにミラにだけ見せる笑顔は守りたくなってしまう魅力がある。普段は冷静沈着なミラも、白夜の前では気持ちを乱され感情豊かな姿を見せる。彼が悪の参謀としての冷酷さを見せるシーンと、白夜に対する優しさを見せるシーンの対比も、物語に深みを与えている一要素といえるだろう。

 ストーリーは基本的に4コマ構成でテンポよく進んでいく。敵対するはずのふたりが織りなすほのぼのとした日常がメインだが、時折ダークで切ないシーンもちらりと覗かせ、絶妙なバランスで読者を引き込む。もちろんラブコメらしく“キュン”要素も多く、随所で読者の乙女心を突いてくる。たまに挟まれるブラックジョークは、藤原ここあ作品の特徴だ。白夜を魔法少女にした張本人である御使いの存在も、物語にコミカルな要素を加えている。魔法少女を導くため天から降り立ったという御使いだが、酒にタバコ、女遊びと放蕩放題。白夜の苦労の要因でもあるため、たびたびミラに制裁を加えられている。

 3巻のとある出来事により白夜の日常は変化を迎え、ミラとの距離感もグッと近づいていく。新たな環境で、ふたりの恋はどう進んでいくのだろう。次の展開を楽しみに思いながらページをめくり終わったとき、はっと現実を思い出してしまう。彼らの“次の逢瀬”は、永遠に訪れないのだと。ミラと白夜の時間は止まってしまった。けれど本を手に取れば、いつでも生きた彼らがそこにいる。できることなら、作者が思い描いていた結末をこの目で見たかった。そう感じているファンはきっとたくさんいるはずだ。そういった意味では、今回のアニメ化で救われる人もいるかもしれない。

 アニメ版『かつて魔法少女と悪は敵対していた。』は、2024年7月9日(火)よりTOKYO MX、BS11、AT-Xにて放送中だ。殺し愛(あ)わないふたりの恋の行方――存在したかもしれない“if”の結末が映像で描かれるのか、展開が楽しみだ。

文=倉本菜生

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