二人一組になれなければ死ぬ。突如はじまる恐怖の特別授業、スクールカースト崩壊の結末とは?いじめと無関心の境目を描くデスゲーム小説

文芸・カルチャー

PR 公開日:2024/9/19

二人一組になってください
二人一組になってください』(木爾チレン/双葉社)

「二人一組になってください」――体育の授業でそう号令がかかるたび、いつも体を縮めていた。クラスが奇数だった場合、私はいつも、“余る”生徒だった。そのため、木爾チレン氏による長編小説『二人一組になってください』(双葉社)のタイトルを目にした時、心がざわざわと音を立てた。その音は、本書を読み進めるごとに大きくなった。わかりやすい悪意ではなく、無関心が人を殺すことはままある。それが実際には、“無関心を装っていた”のだとしても。「本当はずっと心配していた」なんて、後からなんとでも言える。

 本書は、私立八坂女子高校の三年一組に属する生徒たちの物語である。序盤には、生徒名簿と「三年一組カースト表」なるものが記されている。スクールカースト。現代では聞き慣れた言葉だ。一軍、二軍、三軍。同じ人間に上下をつけるカースト制度の名残は、子ども時代から社会全体にはびこっている。

 出席番号24番の水島美心は、体育の授業で二人一組になる際にいつも余っていた。「また余ったのか」という無神経な物言いをする体育教師と、仕方なく手をつなぐ。それが美心の日常であった。高校二年の秋の終わり、クラスでいじめに関するアンケートが配られた。「この学校には、いじめがあると感じますか」との質問に、「はい」か「いいえ」しかない回答欄。「体育の授業で必ず誰かが余る」ことは、「いじめ」だろうか。美心自身も、その答えを探しあぐねていた。

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 三年一組の生徒たちが卒業式を迎える日の朝、残酷なゲームの幕が開く。登校した生徒たちは、教室の黒板を見てざわめいていた。担任教師の鈴田が書いたであろうそれは、卒業生に向けたメッセージではなく、これからはじまるゲームのルールだった。

“【特別授業】
・二人一組になってください”

 この一文を皮切りに、黒板にはいくつかのルールが記載されていた。誰とも組むことができなかった者は失格。失格者が確定したら、次の回へと続く。一度組んだ相手とは、再び組むことはできない。残り人数が偶数になった場合、一人が待機となる。授業の途中で教室の外に出た者は、即失格。などなど。「失格」が何を意味するのかは、早い段階で明かされる。

“この度、このクラスは『いじめをなくそうキャンペーン』の対象教室に選ばれました”

 嬉々とした声でそう繰り返す担任教師は、特別授業に体育教師の秋山を加えていた。その理由は、秋山のこの発言を見れば一目瞭然であろう。

“名簿順で組んでも、誰かが余る。だったら、仲がいいもの同士で組ませてあげようという、配慮ですよ、配慮”

「配慮」という優しさをまとった言葉が、虚しく宙に浮く。「いつも余る生徒」への配慮は必要ないと、本気で思っている大人は実在する。物語の外、現実でも。

 そして規則の説明がないまま授業は開始され、早速一人が失格となる。それと同時に複数の生徒が悲鳴を上げた。ゲームの失格は、「死」を意味していたのだ。謎の特別授業に巻き込まれた生徒たちは、必死に手をつなぐ“友人”を探す。一度つないだ人とは、もう手をつなげない。

 いつもつないでいた手が、本当は煩わしかった人。妬みが憎しみに変わりながらも、友人の顔を貼り付けていた人。かつての友に償いたい気持ちを抱え、それでも何もできずに自分を責め続けてきた人。三年一組という狭いコミュニティの中で、さまざまな人間模様が交錯する。誰かが「失格」になるたび、絶望と恐怖が加速する。それは、常に余る側の人間が日常的に抱える絶望とどちらが重いだろう。

“悪意がないって、時には悪意があるより、罪なことなのかもしれないって、そう思っただけ。”

 生徒会長を務める金森留津の言葉だ。何か事が起きた時、加害者側が使う常套句に「悪意はなかった」という台詞がある。いじめ、パワハラ、セクハラ、性被害、虐待。あらゆる被害において、明確な悪意を持って人を虐げる事象は、むしろごくわずかである。悪意なき疎外、それを知りながら見過ごす悪意なき無関心。集団は、時に恐ろしいほど残酷になれる。誰か一人でも手を差し伸べていたら、何かが変わっていたかもしれない。そう思うことばかりの世の中で、無関心がもたらす痛みと悲しみを見事に言語化した本書は、面倒事から目を背けることで保身を維持する人々にとって、痛烈なメッセージとなるだろう。

 本書を読了した人に、私は尋ねてみたい。

 体育の授業で号令がかかる。

「二人一組になってください」

 いつも自分が余る側に立たされたとしたら、あなたにとってそれは、「日常」ですか。それとも、「いじめ」ですか。

文=碧月はる

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