SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第39回「海外旅行に行きましょう」

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公開日:2024/9/27

 七月の末から八月の頭に掛けて、我々SUPER BEAVERは活動二十年目にして初めての夏休みを取った。初めての長期休み。私の2024年は今まで出来なかったことに挑戦する年と昨年のうちに決めていたので、どんなふうにこの時間を使おうか、しばし頭を悩ませた。

 どうして悩んだのかと言うと、齢三十七の今まで出来なかったことは即ち、今までやらなかったことだからだ。ん、まアこういう極端なこと言うと、環境がどうたらこうたらなので一括りにされるとなんたらかんたら、って意見も飛んでくることはわかっているのだが、俺の事情で話しているだけなので野次は後で聞きますね。

 とにかく。やらなかったこと、つまり興味がなかったことにフォーカスを当ててみることにした私は、色々考えた結果、海外に行くことを決めたのだった。

 新宿にいれば大体事足りると思っている街出不精な私にとって、これはかなり革新的で、私をよく知っている人から見たら、気でもふれてしまったんじゃないかと思われるような決断だった。アクティブからは程遠く、腰の重いこと人一倍、考えることだけは一丁前な男であるが故、決断と同時にフランスに行くチケットを取った。悩む時間が一瞬でも出来てしまったら自分は今までの通り「やらない」を選ぶことがわかっていたからだ。ん、何故フランスかって? なんか格好良いからだよ。

 そして家の真ん中で胡座をかいて、ようやくお得意の考える姿勢を取った。

 さてさて。

 私は考えた。私は何も知らない。行き方も、泊まり方も。フランス語も、英語も。

 私は悩んだ。こういう場合、あれ、えエと。だから、あれ、え? ん?

 そして思い知らされた。いつも何かやる時は誰かやってくれていたという事実を。案外一人じゃなんにも出来ないという現実を。

 それからというもの私は毎日絶望した。逃げ出そうとも思ったが、「俺フランス行くんだよねエ」とか何人かに得意げな感じで話しちゃった時の自分の表情とか声のトーンとかを思い出したらマジでそれだけは出来なかった。行く前からホームシックになって毎晩泣いた。で、気が付いたらうっかり出発の朝だった。

 なんで挑戦する年って決めちゃったんだろ。やったこともないのにどうして勢いで動いたんだろ。そしてなんだよフランスって。縁もゆかりもないどころか、実際なんの興味だってないじゃんか。何故そんな場所で七泊もすることにしたんだよ、長過ぎだろ。あア、大人しく新宿で飲んでれば良かったよオ、馴染みの顔見てゲラゲラ笑って、気がつけば朝になって、泥のように眠って、二日酔いで起きて二度と酒なんか飲まないって誓ったその日の夜にまた惰性で飲みに行っちゃう日々を繰り返す夏休みにすれば良かったのに。なんてことを考えながら飛行機に乗り込んだ。これが日本語に頼れる最後の瞬間であるとも知らずに、私はぶう垂れて座席のリクライニングを倒した。

 

 気が付いたらフランスだった。

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しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。さらに2024年6月2日の東京・日比谷野外音楽堂を皮切りに、大阪、山梨、香川、北海道、長崎を巡る初の野外ツアー「都会のラクダ 野外TOUR 2024 〜ビルシロコ・モリヤマ〜」(追加公演<ウミ>、<モリ>)開催。現在「都会のラクダ TOUR 2024 〜 セイハッ!ツーツーウラウラ 〜」を開催中。

自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中