高倉健のストイックな俳優人生を支えたメニューとは? 栄養と彩り豊かな家庭料理&知られざる食の秘話を伝えるフォトエッセイ
PR 公開日:2024/10/9
日本映画界を牽引し、2014年にこの世を去るまで私たちの心を震わせてきた映画俳優・高倉健。寡黙にひたすら役を生き続けた彼が、人間・高倉健としてどう仕事に向き合ってきたのかは、あまり知られていない。しかしそんな彼の「俳優として生きる上での心と体の作り方」に触れられるのが、本書『高倉健の愛した食卓』(小田貴月/文藝春秋)だ。
著者は、高倉健さんが晩年までを共にしたパートナーとして知られる小田貴月氏。元女優でテレビのプロデューサー・ディレクターも務める小田氏は1996年に香港で高倉健さんと出会い、1年近い文通を経て、彼を支えていくことを決意。最期を看取るまで17年、連れ添った。小田氏と出会った頃、彼は、ジム通いはしているものの100%外食で、足りない栄養をサプリメントで補うという生活。そんな彼が俳優として生涯現役を貫くため、小田氏は手作りの食事で健康面をサポート。高倉さんの好みや心の様子を受け止めながら、体に良く美味しい食事を作り続けた。本書はその料理を紹介するフォトエッセイだ。
「ブランチ」「小鉢・副菜」「主菜」「しめの一品」「正月料理」「ドリンク&スイーツ」「夜食」というカテゴリー別に、全234品の料理を高倉さんとのエピソードを交えて紹介。栄養バランスや野菜中心の献立作りなど健康面の配慮だけでなく、「季節を感じてほしい」「楽しく、飽きずに食べてほしい」など、心豊かに食事をしてほしいという、小田氏の高倉さんへの思いが伝わってくる。栄養豊富な旬の野菜を使った色とりどりのサラダから、野菜を美味しく食べる工夫が詰まった副菜、世界の美味しいものを知る高倉健を楽しませた豪快な肉料理まで、食材選びのこだわりや、ざっくりとした作り方を紹介。レシピ本ではないが、ふだん料理を作っている人なら真似できるアイディアも豊富だ。
また、食事をめぐるエピソードからは、高倉健さんの優しい人柄や故郷への思い、そして少年のようなかわいさが感じられる。たとえば、少年時代、母が朝食の時、4人の子どもたちにそれぞれ卵の調理法の希望を聞いてくれたこと。それをうれしそうに話す姿を見て、小田氏も、卵料理はその日の高倉さんのリクエストに応じて作ったこと。台湾で食べたお粥に心が動いた高倉さんに、小田氏が週末、いろいろな小鉢を乗せたお粥膳を作り、彼が喜んだこと。幼少期の、魚の匂いや骨に関するつらい思い出や、病気療養中に毎日ウナギを食べさせられた経験から、高倉さんは魚が苦手だったこと。ストイックなイメージが強い俳優・高倉健のチャーミングな一面に、心が温まる。
そして何よりも、本書が綴る「食」のあり方は、小田氏と高倉健さんの丁寧な暮らしぶりや、支え合うふたりの絆を伝えている。私たちの心を揺さぶってきた高倉健の力の源泉は、食べること、そして大切な人と共に季節を味わう時間だったことを実感。丁寧に、善く生きるためのヒントが詰まった1冊だ。
文=川辺美希