「今日は何を食べよう?」人気イラストレーター・井田千秋が日々の食事と生活の楽しさをこまやかに綴る珠玉のエッセイマンガ
PR 公開日:2024/10/7
あたたかみのあるチャーミングな絵柄で人気を集めるイラストレーターの井田千秋さん。このたび待望の新刊エッセイマンガ『ごはんが楽しみ』(文藝春秋)が発売された。このかわいらしい表紙を眺めるだけで気分が上がり、同時に情報量の多さに圧倒される。
本作のテーマは「食」。著者が日々の生活のなかで感じる食事にまつわる楽しみと喜びが、こまやかな筆致で展開されている。
例えば一日のはじまりである朝食のパン。ツナチェダーチーズにたまごサンド、あんことイチゴと生クリームのトーストといった、いろいろなパンが登場する。その日の気分で自由にアレンジし、新たなメニューも続々と生まれる。そのわくわく感と多幸感。食事を作るということは、ものを作るということでもあると気づかされる。
自宅仕事の身ゆえに、著者は「ほぼ一日中、年中家で過ごします」と最初に語っている。そのため、本書に出てくる料理の多くは自らが作ったものだ。餃子をはじめとする家中華のあれこれ。インスタント派からドリップコーヒー デビューをするエピソード。週末にゆっくり作ってのんびり食べるブランチのクレープ。三時のおやつと配偶者との晩酌etc.。
基本は丁寧、だけど頑張りはしない。時にはコンビニの冷凍食品を食べ比べすることもあり、その肩の力の抜け具合が読んでいて心地いい。全頁フルカラーによる料理のイラストが力強い存在感を放つ一方で、著者自身の自画像はシンプルなクマなのがまた、程よいのんびり感を出している。それはきっと意識してのことだろう。
日々の生活は、頑張りすぎていては疲れてしまう。さりとて、楽しさがなければつまらない。その楽しさとは、高いものを買う、豪華な外食をする、といったこと(だけ)ではなく、それこそ日常のなかに埋まっている――そうしたメッセージが込められているように感じられる。
そう、これは毎日を楽しく生きるための“何か”を探す冒険の旅の書でもある。
実際、著者は日々いろんな冒険をしてゆく。ランチのお店を開拓しようと近所を探索するうちに、自分が住んでいる街を再発見する。実家から食器を譲られたのをきっかけに器(うつわ)道楽の沼にハマり、皿の絵付けに挑戦。旅先で出会った箸置きに、祖父母の家じまい。特にこの、器に関する内容を中心とした第2章は、著者のちょっとした家族史ともなっていて、食器を軸として三世代の歴史を描く構成が興味深い。
そして最後の第4章で著者は引っ越しをする。新しい街、新しい「家」へ移り住み、新しい生活をはじめる。これぞまさに大冒険だ。
この本のなかで描かれているものごとは、一つ一つはささやかなお話だ。だけど、そうした小さな冒険が積み重なって生活も人生もできている。人生が楽しくなるかどうかは、自分の心次第。まずは今日のごはんを楽しむことから冒険をはじめよう――そんな心持ちにさせてくれる素敵な本だ。
文=皆川ちか