「ラストの表現がかなりの衝撃だった」月100冊以上のマンガを読む、マンガライター・ちゃんめいさんが台湾マンガ『守娘』『葬送のコンチェルト』をおすすめする理由【インタビュー】

マンガ

PR 公開日:2024/10/2

ちゃんめいさんインタビュー

 日本でも台湾マンガを目にする機会が増えた。マンガ・CGアニメの登竜門である「京都国際クリエイターズアワード」や「日本国際漫画賞」などの国際的なコンテストだけでなく「このマンガがすごい!」といった、日本のマンガ好きが選ぶランキングに台湾マンガ家の作品がランクインするようになり、日本語訳版が次々に出版されている。台湾マンガが支持される理由は? その魅力は何なのか。日本のマンガとの違いは? 毎月100冊以上のマンガを読むという、マンガライターのちゃんめいさんに、おすすめの台湾マンガ『守娘』(シャオナオナオ/KADOKAWA)『葬送のコンチェルト』(韋蘺若明:著、串山大:翻訳/KADOKAWA)について語ってもらった。

――ちゃんめいさんは、以前から台湾マンガに注目されていて、昨年『守娘』が刊行されて早々にXでも紹介されていましたね。

ちゃんめいさん(以下、ちゃんめい):書店で茜色の表紙に目を惹かれて手にとったのですが、ページを開いてまず、水墨画のような濃淡のある美しい絵の連続に驚かされました。筆で描いたような力強さと、流れるような勢いのある表現は、女性向けマンガではあまり見たことがないなと。

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――その表現が、物語の核となる怪奇事件と、追い詰められていく女性たちの心情に、ぴったりでしたよね。

ちゃんめい:清朝時代から伝わる台南の三大怪奇事件がモチーフとなっていて、「守娘」というのも、男性から酷い目に遭い非業の死を遂げ、怨霊になってしまった女性のこと。一見、ホラーのようですが、根底に流れているのは女性が抑圧されてきた歴史。声をあげても聞き入れてもらえなかった女性たちの無念です。マンガで守娘と呼ばれるのは、謎の女性霊媒師ですけれど、彼女のもとに持ち込まれる事件を通じて浮かびあがるのもまた、女性たちが理不尽に虐げられている現実で、伝承をこんなふうにアレンジして現代的な物語に変えていくのかと、読みながら興奮してしまいました。

ちゃんめいさんインタビュー

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――結婚して子どもを産むのがあたりまえ、という流れに抗う主人公・潔娘(ゲリョン)と守娘のシスターフッド的な物語なのも、いいですよね。

ちゃんめい:そうなんです。纏足せずに育った潔娘は、足が大きいことを理由に良縁が舞いこみづらいし、そもそも結婚が女性にとっての幸せとは思えない。マンガで描かれている時代には異質の価値観をもった存在ですが、現代の私たちにも感情移入しやすい潔娘を通じてだからこそ、ただ差別の歴史を描くだけではない、希望を模索する物語になっているんですよね。日本のマンガでいうと『大奥』(よしながふみ/白泉社)に通じるものがあるな、と思いました。

ちゃんめいさんインタビュー

――とくに印象に残っているシーンはありますか?

ちゃんめい:上巻のラストで謎の女性霊媒師が思う、「女にはできないことが悪霊になれば簡単にできる」というセリフですね。産む道具としてしか扱われない女性の悲惨な状況が、この一言に集約されているなと感じました。命はあるけど、生きてはいない。そんな女性たちが、みずからの想いを貫くためには怨霊になるしかなかったのだと、切実に迫ってきて……。女は感情的だから、恨みが強いから怨霊になるわけじゃないんです。望まなくても怨霊にならざるをえない状況に、女を追い詰めてしまう社会の枠組みがあった。それは、台湾に限った話じゃないとも思います。日本にも女性が怨霊として現れる怪談はあまたあるけれど、ただおそろしいだけじゃない、その裏には女性たちのおかれた環境の悲痛さが隠されているんだよな、と思いを馳せたりもしました。

ちゃんめいさんインタビュー

――女性が虐げられてきた歴史は、こんなにも国を越えて共通しているのか、と驚かされますよね。一方で、日本とは異なる風習を解説してくれるコラムがあるおかげで、本作をより楽しめた気がします。

ちゃんめい:男の子を生むための呪符がある、とかね。そうまでして! と驚くこともたくさんありましたけど、根っこにあるものは共通してグロテスク。興味深いなあと思いました。それでいうと『葬送のコンチェルト』も、台湾の風習を知ることができておもしろかったです。現代の葬儀屋さんを舞台にした、台湾版『おくりびと』って感じの物語で、死を悼む気持ちはもちろん同じなんだけど、細かい作法が全然違っていて。

――主人公の初生(チュション)が今時の若い女の子で、伝統的な風習を何も知らないから、葬儀屋で働きながら学んでいく、というスタイルなので、私たちにも理解しやすいのがいいですよね。

ちゃんめい:川に転落した遺体を探すために西瓜を投げ入れるとか、それだけ聞くと「なんで!?」って思うし、初生も同じ反応をしてくれるから、感情移入がしやすい。でも、そこにどんな想いがこめられているのか語られると、一転して切なくなってしまうんですよね。お葬式で大声をあげて泣く「泣き女」も、死を受け止められず泣くことすらできない遺族の悲しみを代弁しているのだと知ると、胸に迫るものがあって……。異国の文化って、慣れないと奇異なものに映ってしまうけど、なぜそうなったかを考えれば、単純におもしろがってもいられないと改めて思いました。

ちゃんめいさんインタビュー

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――おそろしさの裏に隠されたものを想うのと、同じですね。

ちゃんめい:もちろんノンフィクションの文献を読んで学ぶこともたくさんあるけれど、マンガという、人の想いを描くメディアだからこそ、より受けとめやすいのだろうなと思いました。『葬送のコンチェルト』も、家族の問題や将来について悩む初生が、さまざまな死に触れながら生きることを見つめ直していく人間ドラマとしての側面があるからこそ、読み手も自分と重ねて理解することができるのだろうな、と。

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