完璧主義者から問題児まで、アイドルを目指す様々な立場の6人。デビューまでの“余命”に向き合うアイドルの卵を描く『スターゲイザー』

文芸・カルチャー

PR 公開日:2024/9/27

スターゲイザー
スターゲイザー』(佐原ひかり/集英社)

 鮮烈なデビュー作『ブラザーズ・ブラジャー』(河出書房新社)や、TikTokから火がついたヒット作『人間みたいに生きている』(朝日新聞出版)などで注目を集める、気鋭の作家・佐原ひかり氏。最新作の『スターゲイザー』(集英社)は、アイドルを題材に青年たちのヒリヒリとした心情や関係に光を当てる青春群像小説だ。

 事務所ユニバースに所属する、デビュー前のアイドル「リトル」。リトルには入所してから10年以内にデビューできなければ、自動的に卒業になるシステムがあり、彼らは残された時間を「余命」と呼んでいる。卒業後も事務所に所属して芸能活動は続けられるものの、アイドルとしての可能性は閉ざされてしまう。少年たちは限りある時間の中で、デビューを夢見て日々レッスンやステージに取り組んでいた。

advertisement

 毎年恒例の、リトルが総出演する夏の1ヶ月公演「サマーマジック」。今年の舞台は、デビュー間近だと目されるグループ「LAST OZ」を中心に構成されている。やがてリトルたちの間で、今回のパフォーマンスを見てLAST OZの追加メンバーを決めるという噂が流れ出す。この噂をきっかけに、皆はより一層気合を入れてステージに挑んでいくが――。

 物語は6人のリトルにフォーカスした連作短編形式で進む。何事にも余力を残してそつなくこなし、サイボーグと揶揄されるほどに愛想がない加地透。14歳の若さでユニバース最高の美貌と言われ、事務所の秘蔵っ子として推されている和田遥歌。スポットライトを浴びるのが大好きでファンサも得意だが、遥歌の引き立て役であり彼に対して鬱屈を抱える持田良。ストイックなアイドルぶりから、「三苫プロ」とファンから呼ばれている完璧主義者の三苫葵。芸能一家に育ち、歌も上手くミュージカルで活躍中だが、ベッド写真が流出して謹慎中の問題児・真田蓮司。入所9年目の24歳だがアイドルとしてはパッとせず、タイムリミットが迫る若林優人。

 エピソードごとに主人公と視点が切り替わることで、それぞれが内に秘める想いや、リトル同士の関係が重層的に綴られていく。遥歌は自身とは持ち味が全く違う蓮司に憧れ、その蓮司は優人の役者としての抜きん出た資質に気づいて執着し、彼を事務所に引き留めようと画策する。性格も考え方も異なる彼らが、アイドルという仕事を通じて悩み葛藤し、時には対立もしながら成長をみせる。アイドルの世界に鋭く切り込んだ物語でありながらも、ジャンルを問わず広い読者に響く、普遍的な煌めきを放つ作品だ。

 本作に登場するリトルは皆が皆、デビューに対して執着し、強い野心を抱いているわけではない。とりわけ最初のエピソードの主人公である透は、人生を懸けて若さを費やす現在のシステムに疑問を抱き、ある出来事をきっかけに、限界を迎えずにアイドルの活動を続けるにはどうしたらよいのか考え続けることになる。アイドルへの強い愛とリスペクトをベースにしつつ、彼らを取り巻く構造にも批評的な視線を注ぐその筆致には、このジャンルの可能性あるいは未来に向けて込められた祈りが強く感じられる。

 さまざまな分野の広がりをもつエンターテインメントの世界で、アイドルだからこそ体現できること、アイドルという世界を通じてしか見ることができない姿とは、いったい何だろうか。本作を読み進めながら、そんな思索をめぐらせてみたい。

文=嵯峨景子

あわせて読みたい