いつ観ても怖い名作ホラー映画『ペット・セメタリ―』。スティーヴン・キング原作、幼い子どもを襲う理不尽な結末とは?

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更新日:2024/10/21

ペット・セメタリー"
ペット・セマタリー』(スティーヴン・キング/文藝春秋)

「ホラーの帝王」といわれるスティーヴン・キング。2024年は同氏のデビュー50周年イヤーだ。著者の作品が映画化されるとなると、「怖い」ことは100%保証されなければならないだろうし、映画制作スタッフもそうなるように頑張ることだろう。

1983年に出版された原作を映画化した『ペット・セメタリー』(ケビン・コルシュ、デニス・ウィドマイヤー:監督)は、そこに「グロい」、さらには「かわいそう」という二軸が加わる。正直なところ、その類が苦手な方は鑑賞をやめておいたほうがいいかもしれない作品だ。割と大丈夫という方でも誰かと一緒に観るか、一人なら昼間に観たほうがいいかもしれない。1989年にも映画化されたが、本記事では2020年に日本公開された最近のものを紹介する。

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〈あらすじ〉

舞台はアメリカ。家族ともに大都会・シカゴから北東部・メイン州の田舎町に引っ越した医師・ルイス(ジェイソン・クラーク)。家族構成は、妻・レイチェル(エイミー・サイメッツ)、思春期の娘・エリー(ジェテ・ローレンス)、まだ幼い息子・ゲイジ(ヒューゴ/ルーカス・ラヴォイエ)、猫・チャーチ。マイホームのそばには、謎めかしい動物の墓地「ペット・セメタリー」がある。ある日、チャーチが事故で死に、ルイスは墓地の奥の森に埋葬する。翌日、死んだはずのチャーチが一家の前に姿を現わし……

とにかく本作は「かわいそう」の要素が強いということを最初にお伝えしておく。原作の『ペット・セマタリー』(スティーヴン・キング/文藝春秋)は「怖い」というよりも「恐ろしい」という印象で、ページをめくった瞬間ギョッとしたり、文を見て「うわぁ」と目を塞ぎたくなったりするようなことはない。悪夢を見てハッと起きたら寝汗びっしょりだったというような感じで、「あぁ恐ろしいものを見てしまった」とジワジワと感じるような本だ。

だが映画のほうは、しばしば「死んだはずの◯◯」がバンッ!といきなり出てきたり、喋ったり、襲ってきたりしてビックリさせられる。いわゆるホラー映画的演出だ。

また、ゾンビ映画のように流血したり臓器が見えたりするシーンなどもあり、目を塞ぎたくなるときも多くある。そして極めつきは、とにかく本作は「かわいそう」なのだ。特に、原作小説とは亡くなる人物が違う点が、理不尽さを増している。

そして「セマタリー(sematary)」がタイトルの一部となっているが、これは霊園(セメタリー[Cemetery])の子どもっぽいスペルミスという設定で映画中でも描写されている。ややネタバレになるが、本作では子どもも亡くなる。皆殺しにはならないが、なるような予感もさせる勢いで物語は展開していく。

誰が亡くなっても悲しくはあるが、原作→映画の順番で鑑賞した筆者にとっては、視覚的に「さらにかわいそう」な選択を制作者がしたように感じた。それは制作者が性悪だからというわけではなく、きちんと意図があるのだと思う。おそらく、都会と田舎という対比、そしてそういった二極化によって生じる経済活動の圧力をより顕著にするためだと筆者は予想した。

ルイス家の脇には幹線道路が通っていて、タンクローリーがものすごいスピードで通る。田舎に越してきても、都会の影響からは逃れられないということが視覚的に伝わる描写だ。スペルミスをしない年齢まで育った子が、せっかく育ったのに、人々の消費のためにせかせかと疾走する車にひかれて、いままでの時間が「無」と化す。その理不尽さが最上になるような演出にしたのだろう。

スティーヴン・キング自身が「あまりにも恐ろしくて忌まわしい」と発表を数年先延ばしにしたという曰く付きの本作。「それでも体験したい!」という方は、ぜひ心して鑑賞してみてほしい。

文=神保慶政

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