来期のNHK大河ドラマの主人公「蔦屋重三郎」はどんな人物? “江戸のメディア王”の正体に迫る!
PR 公開日:2024/10/18
地上波連続ドラマが苦戦を強いられるようになって久しい。さまざまなコンテンツが溢れるなかで、毎週視聴し続けてもらうのは至難の業だろう。そんななかでも、NHKの連続テレビ小説“朝ドラ”と大河ドラマは別格だ。誰が主演を務めるのか、どんな題材を描くのか、毎回注目される。
2025年1月から放送される大河ドラマは『べらぼう ~蔦重栄華乃夢噺~』。主演は横浜流星が務める。タイトルにある“蔦重”は、物語の主人公・蔦屋重三郎のこと。ドラマのオフィシャルサイトでは、“江戸のメディア王”と紹介されているが、どんな人物だったのか。
『蔦屋重三郎 江戸を編集した男』(田中優子/文藝春秋)では、江戸文化研究者である著者が、蔦屋重三郎が生きた江戸時代の背景とともに、その人物像に迫る。
重三郎は、江戸時代の出版業者・編集者だった。出版の世界でも、優れた作家であれば後世に名を残すのは理解できるが、彼はいわば裏方の人。それがなぜ今も知られているのか。著者は「北川勇助という青年を、世界的に著名な『喜多川歌麿』に育てたからである。また能役者・斎藤十郎兵衛という芝居好きの人物から才能を引き出し、『東洲斎写楽』という浮世絵師にしてしまったからである。サブカルチャーとしての江戸文化を活性化した江戸っ子の代表『山東京伝』を、危険なほどに先鋭化させたからである」などと説明する。
吉原で生まれ育ち、本の販売、貸本を営んでいた彼は、吉原の遊郭などを紹介する「吉原細見」の改訂業務を請け負う。今でいう情報誌のようなものだ。そこで遊女たちの情報を並べるだけではなく、当時マルチに活動していた平賀源内に序文を寄稿させるなどして新たな価値を生み出した。また、「洒落本」といわれるものでは、遊郭を舞台にした作品で、現実の日本社会を風刺し、吉原や遊女を文化的な存在として再定義した。このジャンルで活躍したのが山東京伝だった。
ほかにも、五七五七七の和歌形式にユーモアや風刺を交えた「狂歌」を集めた「狂歌本」の出版を一手に引き受けた。当時、さまざまな人が娯楽として楽しんでいた狂歌だったが、出版物として世に残すことで、文学的価値のあるものとして位置づけたのだ。
その流れのなかで、絵師の喜多川歌麿と絵入りの狂歌本を出版。これがきっかけで歌麿は世に知られることになる。さらにはアマチュア絵師だった東洲斎写楽に役者絵を描かせて、才能を見出した。写楽が活動したのはわずか10ヵ月と短期間だったが、歌舞伎役者が見得を切る姿を描いた迫力ある絵を見たことがある人は多いはずだ。写楽の作品はすべて重三郎の店から出版されたという。
このように重三郎は次々に話題作を生み出したヒットメーカーだった。“江戸のメディア王”と謳(うた)われているのもうなずける。江戸の文化を作り上げたわけだ。本書を読み、彼のキャリアを追うことで思ったのは「200年以上前の江戸時代でも、現代でも、成功する人間は変わらないのだな」ということだ。
世間の流行を捉える、既存のものに付加価値を付ける、他者がやらないことをやる、才能ある人物を見出して起用する…。200年以上前といえども、彼は全くのゼロから新しいものを生み出しているというより、これらのことを高い熱量とスピード感をもって実行しているように見える。それって、今でも同じではないか。
とにかくエネルギッシュな人物だ。大河ドラマでは、横浜流星がどう演じるのだろうか。そんなところも楽しみになる1冊である。
文=堀タツヤ