ホラー小説は今、盛り上がっている!? 初心者は何を読むべき? 「ホラー小説の楽しみ方」をホラー小説編集者に聞いてみた

文芸・カルチャー

公開日:2024/10/5

人はつらい時ほどホラーを求める?

――怖いと感じる対象は違っても、人はなぜか恐怖を求める傾向があります。本来怖いものは遠ざけたいはずなのに、なぜホラーに惹かれてしまうのでしょう。

藤田:根源的なことを言うと、子どもってみんな怖いテレビ番組や肝だめしが好きですよね。僕の息子も、「怖い怖い」と言いながら怖い絵本を読んでいます。「怖いもの見たさ」という言葉もありますし、基本的にはみんな怖いものが好きなんじゃないでしょうか。

伊藤:僕の場合、怖い小説を読むと安心するんです。「ここにはもっと大変な人がいる」「自分は幸せなんだ」と自分の安全性を確認しているのかもしれません。ある作家さんからは、「病院の入院患者向けの本棚にホラー小説がたくさんあった」と伺ったこともあります。つらい状況に置かれると、人は幸せな小説を読めなくなる。その気持ちは僕もわかるなと思いました。

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藤田:そういえば、僕も身内の入院中にホラー映画ばかり観ていました。現実に不安なことがある時にホラーに触れると、ホッとするのかもしれません。

伊藤:あとは、辛いものが好きな人も、ホラーが好きなんじゃないかと思いますね。スパイスのような刺激を求める気持ちに近いものがあるような気がします。

菰田:私も伊藤君に似ているかも。ミステリーを愛読していた高校時代は、すべてロジックで解決できる明快さが好きだったんです。当時の私にとっては、高校が世界のすべて。テストで良い点を取れば褒められますし、そこに幸せを感じていました。ですが、大学生活や就活においてはテストの成績なんて関係ありません。ロジックでどうにかなるほど世界は明快ではなく、理不尽にあふれていると気づいたんです。そこから、理不尽なことがたくさん起きるホラー小説に魅力を感じるようになりました。

今井:私の場合、“非日常との隣り合わせ感”が好きなんです。ゾンビパニックのようなホラーよりも、日常の中で突然なにかが起こるほうが怖くて。『リング』(鈴木光司/KADOKAWA)も、ビデオテープを見ると呪われるというのが本当にありそうで怖かった。日常に潜む非日常が、私の恐怖心を刺激するのだと思います。

『リング』(鈴木光司/KADOKAWA)
リング』(鈴木光司/KADOKAWA)

――求める怖さはそれぞれ違いますが、定番ジャンルはあるのでしょうか。ホラー小説の中でも、今人気のジャンルを教えてください。

菰田:お化けホラー、家ホラーは定番ですよね。モキュメンタリーホラーは、ジャンルというより形式。このスタイルを使って、何を描くかでジャンルも変わってくると思います。

今井:因習村ホラーも定番ですが、そろそろお腹いっぱいな気もしますね。奇祭が行われる謎の島、みたいなものは(笑)。

藤田:「やっぱり人が一番怖い」という“ヒトコワ”も一時期人気でしたよね。

今井:ただ、単純な“ヒトコワ”ではもうみんな怖がってくれなくなりましたよね。最近は「お化けも怖いし人も怖い」というハイブリッド型になっている気がします。何が怖いと思うかは、本当に千差万別。10年くらいホラー小説の編集をしてきて、「全人類が怖がってくれるホラーは存在しない」と思うようになりました。

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