ホラー小説は今、盛り上がっている!? 初心者は何を読むべき? 「ホラー小説の楽しみ方」をホラー小説編集者に聞いてみた
公開日:2024/10/5
ホラーアンソロジーは、好みの怖さを知るための第一歩
――ホラーの初心者に向けて、皆さんがおすすめするホラー小説はありますか?
今井:手前味噌ではありますが、角川ホラー文庫30周年記念の書き下ろしアンソロジー『堕ちる 最恐の書き下ろしアンソロジー』『潰える 最恐の書き下ろしアンソロジー』(ともにKADOKAWA)は、初めてホラー小説を読む人でも楽しめるラインナップです。多くのホラーアンソロジーはテーマに沿った短編をまとめたものですが、今回はあえてテーマを設けず、「とにかく怖いものを」とお願いし、書き下ろしていただきました。
その結果、作家さん一人ひとりの原点に立ち返るような作品をご執筆いただくことができました。宮部みゆきさんなら少年が登場するノスタルジックなホラー、鈴木光司さんなら『リング』をめぐるホラー、小池真理子さんなら喪失を描いたゴーストストーリーと、それぞれがもっともお得意とするテーマで書いてくださって。描かれる恐怖も幅広く、きっと皆さんにとって最恐の一編が見つかると思います。
――執筆陣も驚くほど豪華ですよね。
今井:アンソロジーを企画した際、「この作家さんに書いていただけたらうれしいよね」という“夢リスト”を編集部員みんなで作ったんです。無理を承知でご依頼したところ、皆さん「角川ホラー文庫30周年だし」とご快諾いただき、私たちもあまりにも夢が叶うので驚いたほどです(笑)。
藤田:ラインナップでこだわったのは、ホラー界のレジェンドと新鋭の作品をミックスすること。読者の皆さんにとって、新しい作家さんとの出会いが生まれるアンソロジーにしようという思いで、各巻を構成しました。
――現在、伊藤さんが編集を担当した『潰える』、菰田さんが担当した『堕ちる』が発売中です。おふたりは、どのような思いで本書を編集しましたか?
伊藤:大御所の先生方と新進気鋭の作家さんが混ざり、バランスの取れた構成になりました。これまでずっとホラー小説を愛読してきた方々に加え、ホラーに初めて触れる方にもぜひ読んでいただきたいですね。各巻6編ずつ収録していますが、全作品で怖さの種類が違います。誰もが絶対に好きな作品が見つかるアンソロジーになり、とてもうれしいです。
菰田:私が長年読者として接してきたレジェンド作家が名を連ねていて、すごく豪華ですよね。私が担当した『堕ちる』には、ゲームブックのような仕掛けを施した新進作家・新名智さんの短編などユニークな作品も収録され、新旧の楽しさが味わえます。お読みになった方々で、どれが一番怖かったか語り合っていただきたいです。
今井:Xでの反応やAmazonのレビューを見ると、どれが一番怖かったか人によってバラバラなんですよね。あらためて、恐怖を感じるツボは人によって違うんだなと思いました。
――特に人気が高いのは、どの短編でしょう。
今井:『堕ちる』に収録された内藤了さんの「函」は、皆さん怖いと言いますね。
伊藤:KADOKAWAではホラーテイストの強い警察小説をご執筆いただいていますが、他社では物件系ホラーミステリシリーズを書かれていたことも。これまでの経験をすべて注ぎ込んでくださったので、本当に怖かったです。
今井:一穂ミチさんの「にえたかどうだか」も好評でした。「一穂さんがホラー?」と驚いた方も多かったようですが、本当に怖くて。他にもお名前を挙げたらキリがないですし、全部怖い(笑)。「私の推し作家はこの方だけど、一番怖かったのは別の短編だった」という感想も多く、本当に良い企画になったなと思います。12月刊行予定の『慄く 最恐の書き下ろしアンソロジー』(KADOKAWA)の収録作もすべて原稿があがっていますが、いずれも渾身の作品ばかり。こちらもまた全然違う恐怖を味わえるので、楽しみにしていただきたいです。
――芦花公園さん、北沢陶さんをはじめ、若手作家の台頭も目覚ましいですよね。「この作家さんは押さえておくべき」という方は?
菰田:私は梨さんですね。仕掛けで注目されがちですが、それにとどまらず「私、こういうものにも恐怖を感じるんだ」と気づかせてくれる新たなホラーを書いてくださる方です。私も読むたびに毎回こわさを再発見しています(笑)。11月には角川ホラー文庫で書き下ろし短編集を刊行する予定です。
今井:私は、2023年に『をんごく』(KADOKAWA)で第43回横溝正史ミステリ&ホラー大賞〈大賞〉〈読者賞〉〈カクヨム賞〉の三冠を獲得した北沢陶さんですね。「天才、現る!」と思いました。横溝正史ミステリ大賞と日本ホラー小説大賞を統合し、横溝正史ミステリ&ホラー大賞になったことで、ジャンルを超えて新たな書き手が生まれているように感じます。
藤田:僕も北沢さんを挙げようと思っていました。北沢さんは、文章がすごくいいんです。小池真理子さんもそうですが、ページを開いた瞬間から匂い立つような怖さがあり、異界に引き込まれていくような感覚を味わえます。ホラー小説の系譜が今も受け継がれているんだなと、北沢さんの作品を読んで強く感じました。