「これは、絶対売れる!」出版界の“仕掛け番長”こと栗俣力也さんが、思わずうなった台湾マンガ『いぬとおまわりさん』『綺譚花物語』。その魅力とは?【インタビュー】
PR 更新日:2024/10/19
――バイトの青年に体を洗われて、極上のマッサージだ……!となっている店長もかわいかったです。
栗俣:犬の習性にちょっとずつなじんじゃってね。ちょっとオタクの太陽の天然な感じもいいし、なによりタオが愛らしい。『かえるの王さま』にヒントを得て、もしかしてキスしたら元に戻るんじゃないか?と思い、試してみた店長に、楽しくなってタオがじゃれつくところなんかもよかったですね。「これ以上キスしたら変態になってしまう」って店長が焦るところが好きだった(笑)。
――こわもてだからこそのギャップがいいですよね。
栗俣:そう。ギャップの描き方もまた、うまいんですよ。たとえば、1話はその後の展開に比べてシリアスに描かれるでしょう。店長がどうしてペットショップを開いたのか、元相棒のことを含めて、抱えている想いも含めてしっかり伝わってくるからこそ、犬になってしまった店長の焦り、店を存続させなければと犬ながらに必死になることのおもしろさが際立つ。読み味を状況に応じて巧みに変化させて緩急をつけている、本当に表現がお上手なマンガ家さんだなと思いますね。
――実を言うと、今回のインタビューでは台湾マンガならではのおもしろさ、みたいなものを伺おうと思っていたんです。でも……。
栗俣:少なくともこの作品に関しては難しいですよね。垣根を越えるというよりも、そんなものは端から存在していないという感じがする。翻訳の方がお上手だというのもあると思いますが、言語の壁さえ乗り越えれば、人は「おもしろさ」でどこまでも繋がっていけるのだという希望も感じられる。
『綺譚花物語』を読んだときも、同じことを思ったんですよ。これは短編・中編集ですけれど、巻末にそれぞれのお話のスピンオフみたいな4コマのおまけマンガが収録されているでしょう。こういうの「台湾の人も好きなんだ!」って嬉しくなりました。なぁんだ、マンガ好きはみんな一緒じゃん、って。
――『綺譚花物語』は、『いぬとおまわりさん』よりも台湾の習俗が描かれるので、異国の雰囲気はありますが、描かれる繊細な感情の機微は、おっしゃるように垣根の存在しないものばかりでしたね。
栗俣:おもしろいマンガの条件って、2つあると僕は思っているんです。1つは、共感できること。もう1つは、何かを「知る」ことで好奇心が満たされること。『綺譚花物語』はまさにその2つを満たしてくれるものでした。
1話目の「地上にて永遠に」は、冥婚――死者と結婚するという日本ではあまり聞かない習俗が描かれていて、なぜそんなことをするのか、文化背景が語られるのがまずおもしろい。副読本として、台湾の習俗に関する本があったら、セットで売れるんじゃないかな。なにより僕が読みたい。台湾の文化そのものに興味をもって、深掘りしたくなってしまいますよね。