「これは、絶対売れる!」出版界の“仕掛け番長”こと栗俣力也さんが、思わずうなった台湾マンガ『いぬとおまわりさん』『綺譚花物語』。その魅力とは?【インタビュー】
PR 更新日:2024/10/19
――だからといって、冥婚した男女を描くわけではないのも、意表を突かれますよね。主人公は15歳の少女。叔父さんの冥婚相手である同い年の少女につきまとわれていて、その不思議な関係を通じて、思春期の心の揺れだけでなく、女性たちの置かれた状況が浮かび上がってきたりもする。
栗俣:女性同士の関係を描く作品は日本でも増えていますけど、以前はもうちょっと艶っぽい絡みのあるものが多かった気がするんです。でも最近は、内面的な繋がりがより重視されるようになってきた。主人公の英子はいわゆるツンデレキャラで、死者と思えないほど朗らかで一直線な詠恩との掛け合いが単純におもしろくはあるんだけれど、真逆な性格のふたりがほんの一瞬、通じあい、惹かれあう。その関係の切なさが、ものすごく心に残りました。何より、目の描き方がいいんですよね。
――表情ではなく?
栗俣:表情の印象をもっとも強くするのは目だと思いますし、目の描き方が特徴的なマンガって流行る傾向にあるんですよね。『綺譚花物語』は、ほかのお話もすべて、登場人物のキャラが濃くて、目の描かれ方にもそれぞれクセがある。読み手が愛着を持ちやすいし、射貫かれるように、印象に残りやすいんです。
――「小夜啼鳥」も印象的でしたよね。性的なことも含めて、女性同士の関係により深く踏み込んだお話でしたが、怯えや羞恥、怒りの表現が効果的に目を通じてなされているからこそ、こみあげる愛しさも際立っている。
栗俣:だからこそ行き過ぎたエロにならず、色気も匂いたつ。過激な表現がなくても、描けるものがあるのだということを、この作品は証明しているような気もします。『綺譚花物語』はすべてが女性同士、いわゆる百合とかシスターフッドとかいわれるたぐいの物語ですが、あえて名づけるのは野暮だと感じられる絶妙な表現も、巧みだなあと思います。
――それで言うと『いぬとおまわりさん』もBLにはならない一歩手前で、絶妙な表現をしているなと思いました。
栗俣:ああ、そうですね。その、名前のつかない感じって、本来は日本人が得意としていた表現のような気もするんです。くりかえしになりますが、それを海外のマンガでこれほど繊細に描かれてしまうのは脅威ですね。むしろ、新しいマンガ表現というものを、日本より先に生み出してしまう可能性を秘めているのではないかとすら思う。
ぜひ、いろんな作品を書店でも展開したいなぁと心が躍りますよ。ジャンル問わず、マンガを読んで一度でもおもしろいと思った経験のある方にはぜひ、手にとってもらいたい。百合が好きだから、子どもや動物が出てくるほっこりストーリーが好きだから、ではなくて、ただ「おもしろい」を求めている人に読んでほしいと思います。
取材・文=立花もも 撮影=水津惣一郎
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