我が子に毒親のように振る舞って苦しい…。まず自分の傷の深さを知ろう/なぜ、愛は毒に変わってしまうのか⑥

暮らし

公開日:2024/10/29

 親を憎んでしまうのは自分のせい? なぜ子どもを束縛したくなる? こんな家族関係の悩みを人知れず抱えている方は多いのではないでしょうか。

 SNSなどで注目される「毒親」について、脳科学者・中野信子氏が鋭く迫った『なぜ、愛は毒に変わってしまうのか』をご紹介します。

 日本の殺人事件のうち55%が親族間殺人。殺人事件の件数は減っているのに家族間の憎しみが増えているのは、「家」という組織の中で一体何が起こっているのでしょうか?

  家族についての悩みはあなたのせいではありません。気鋭の脳科学者が毒親との向き合い方を解説します。

※本記事は書籍『なぜ、愛は毒に変わってしまうのか』(中野信子/ポプラ社)より一部抜粋・編集しました

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なぜ、愛は毒に変わってしまうのか
※写真はイメージです(画像提供:PIXTA)

自分を知るための「毒親」という指標

 親も、毒親になりたくてなっているわけではないのかもしれない、と理性では理解できても、傷が癒えるわけではありません。また、痛みがなくなるわけでもないでしょう。そもそも、自分を傷つけた相手を、親であるからということだけで許せるかどうかといわれれば、かなりの困難があるのではないでしょうか。もちろん外向きには、もう許しています、と言えたとしても、本心からそれを口にするのはかなりの努力が必要でしょう。

 毒親、という言葉は、自分の親がそうであったのかなかったのかを判別して、彼らを責めることによって自分の抱えた痛みをいっとき軽くしようとするために使うのではなく、自分の持っている傷がどれほど深く、それを癒していくためには何が必要なのかを知るために使うべきです。

 そもそも、何が毒で、何が毒ではなかったのか、はっきりとわかるような行為もありますが、判別するのが難しいようなものもあります。ひとえに、その子と、親との関係性によって決まるものなのです。

 言ってしまえばつまり、毒親というのは、そういう親のことそのものを指すというよりも、その子と親との相性の悪さを示す概念であり、相性の悪い親のもとで育ってしまった「毒親育ち」の子どもたちの、現在の状態がどれほどのものかを問う指標として有効だといえるでしょう。毒親、という言葉にもし反応して、自分もこの心の裡の苦しさを吐露したい、という気持ちになったのなら、その気持ちの強さが、毒親、という指標によって測ることのできる傷の深さです。

 親たちをむやみやたらと攻撃するために本書を書いたのではありません。たとえば、親の価値観を押しつけられてきて息苦しかった、ということで自分は毒親育ちですという人の場合、女の子らしくすることを強要されて嫌だった、勉強ばかりさせられたなど、確かに子にとっては苦痛があったかもしれない。けれど、親だって子どもが社会に出たときに困らないようにと考えて、心を鬼にして、子どもをしつけなければという使命感があったでしょう。

 子が初めて出会う愛情の対象が親だとするなら、初めて出会う不条理の体現者もまた親なのです。毒親なのかどうかが判然としないようなケースでは、たしかに子側があまり良い印象を持っていない以上、親はいたらない親ではあったのでしょう。しかし、そもそもほとんどの親は、いたらない親なのではないでしょうか。今もし自分も親となって、子を育てていく中で自分の親のように振る舞ってしまうことに苦しさを感じている人がいたとしたら、自分の傷の深さを見つめ、それを癒すところから始めてみてほしいと思います。

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