双極症(躁うつ病・双極性障害)でも穏やかに働くことはできる。気分の波と上手に付き合うヒントが詰まった「双極はたらく本」
公開日:2024/10/18
双極症という病気をご存じだろうか。
誰にでもある「気分の波」が一時的なものではなく、長期間にわたって上がったり、あるいは落ち込んだりを繰り返す病気のことである。双極症、あるいは双極性障害や躁うつ病とも呼ばれる。Ⅰ型とⅡ型に分かれており、Ⅰ型は激しい躁状態とうつ状態を繰り返し、Ⅱ型は軽躁状態とうつ状態を繰り返す。双極症の発症割合は100人に1人と言われている。
2024年9月、秀和システムより『ちょっとのコツでうまくいく!躁うつの波と付き合いながら働く方法』(松浦秀俊:著、高江洲義和:監修)が出版された。情報公開後、またたくまにAmazonで予約され、出版前重版が決定した。出版後はSNS上で当事者たちから「購入しました!」「前向きになれる本だった」「双極と上手く付き合うヒントに溢れている」などの声が相次いでいる。
著者の松浦と筆者は、双極症の当事者同士として交流があるのだが、最初に話したときは「こういう人でも躁うつ病なのか」と思ってしまったくらい「病をコントロールしている」人物である。スマートウォッチを身につけ、睡眠時間や歩数を基準にして躁状態になっていないか観察し、認知行動療法で病状を管理する。だから、本書の「はじめに」を読んで驚いた。20代で4回の転職と4回の休職を経験し、組織に属して働く自信を失っていた時期があるというのだ。
双極症に関するフォーラムに参加した際、登壇されていた加藤先生のある言葉に衝撃を受けたことを覚えています。
それは「双極症は身体の後遺症は残さなくても、社会的な後遺症を残す病気である」という言葉でした。「社会的な後遺症」という言葉は、双極症をたとえる表現として的確であり、とても腑に落ちたことを覚えています。(第1章 双極症とはどういう病気か)
社会的な後遺症。双極症の診断は時間がかかると言われている。本書によると、うつ病と診断された人が実は双極症だったというケースは割合として10人に1人か2人いるそうだ。双極症にはうつの薬は効かない。双極症は正しい診断がつくまで10年以上かかることも少なくないと言われている。松浦自身も21歳の時にうつ病の診断を受けたが、双極症を発症していた可能性は高いという。正しい診断が下りたのは27歳の時だ。
現在、双極症の治療法ははっきりしている。基本的には薬物治療。本書によると、心理社会的治療とを組み合わせることで「生活の質を向上させる効果が期待できる」という。他にも認知行動療法、対人関係・社会リズム療法、家族療法など、紹介されている選択肢は多数ある。そして実際に松浦自身の「双極症と付き合いながら穏やかに働き続けるための具体案」も書かれている。例えば「双極トリセツをつくる」。自分の「取扱説明書」を作成するというのだ。
双極症の症状に振り回されやすい、よくある4つのパターンがあります。
・調子を整える方法が薬と休養だけ
・ストレスへの対処が回避行動中心
・気分に任せて行動し、その後に反動が来る
・負のスパイラルに対処できていない(中略)これらは、双極症に対して受身的な、症状に振り回されている状態といえます。(第4章「双極トリセツ」をつくる)
自分自身の今までの気分の波を振り返り、躁/軽躁、うつ状態を整理する。そうすることで、躁うつの前兆を把握し、対処することができる。
他にも、躁のイライラに対して「あえて面倒な方法で連絡してみる」。万能感に対して「社内ではブレストリーダーになる」。うつの不安感に対して「書き出すと話すで不安感を軽減する」など、松浦の「具体案」は多岐にわたる。
本書は双極症当事者はもちろん、家族、同僚への対応の参考になるだろう。双極症は治らない。けれど、進むことはできる。私たちは躁うつの波と付き合いながら、働くことができる。
文=高松霞