「今の怪談ブームは危うい」“実話怪談”が今改めて脚光を浴びる理由とは? 【怪談師/作家・夜馬裕インタビュー】
公開日:2024/10/25
実話怪談の定義 =「リアリティーを持っている怖い話」
――お持ちの怪談は、いわゆる実話怪談がほとんどなのでしょうか。
夜馬裕:そうですね。ただ、そもそも裏を取れない個人的なエピソードばかりなので、「実際に聞かせてもらった」という意味での実話怪談ですね。
――そもそも実話怪談の定義とは?
夜馬裕:シンプルに言えば「実際に起きた」または「実際に聞いた」でもいいのですが、体験した人がどこまで話を盛っているのかもわかりません。こちらが話すときも、マンションの階数や性別など、多少変えて話すことはあります。だから実話怪談とは何だろうと考えると、「リアリティーを持っている怖い話」だと思うんですよね。
実話怪談ファンにはいろいろなレイヤーの人がいて、まず魂の存在を信じたいという人がいます。この人たちは、誰かの体験談よりも、幽霊が見える人の話の方が好きで、怪談にエンターテイメント性を求めていません。一方で、リアリティーを持った怪談を、エンターテイメントとして聞きたいという人もいます。手品に例えるなら、タネのある手品としてではなく、超能力(リアル)として見たいという人ですね。
イベントに怪談を聞きにくるお客さんの多くは、そういうリアリティーとエンターテイメント性を求める人たちだと思っています。最近はフェイクドキュメンタリーといったジャンルもありますが、あれはどこまで行っても、すごくリアルなホラー。だから実話怪談とは全く違うものなんですよね。
――観客や読者にリアリティーを感じさせることが大事?
夜馬裕:そうですね。例えば駅の名前が出てくると、僕は必ずGoogleのストリートビューで調べます。「広いバスロータリー」と言っていても、実際は大して広くなかったりするんですよ。本筋に関わることでなくても、確かめられることは、確かめるようにしています。それによって、不思議な話もリアルなものと信じて語れるのかなって。それが怪談のリアリティーの担保になっているのだと思います。
現在の怪談ブームは危うい状態?
――今、改めて実話怪談が脚光を浴びている理由をどのように分析されていますか?
夜馬裕:脚光を浴びていると言えばそうですが……複合的な要因があると思います。まずテレビなどオフィシャルなメディアはコンプライアンスが厳しくなって、オカルトなど曖昧なものが消えてしまいました。スポンサーが付くようなメディアで怪談をすると、「できれば自動車で死なないでほしい」「消費者金融はスポンサーなので借金もやめてください」などと言われることもあります。
テレビから消えてしばらくは、首都圏で開かれるイベントや、本、一部のWebサイトなどでしか怪談に触れることができなくなってしまった。しかし、その後、コロナ禍になって配信ブームが起きると、YouTubeなどを通じて怪談を楽しむ人が増えました。とはいえ、スピリチュアルや都市伝説の方がはるかに人気がありますし、仮にテレビでオカルト番組が変わらず放映されていれば、怪談はここまで盛り上がってはいなかったでしょう。
ただ現在のブームも、僕は結構危ういものだと思っています。人気が高まって、演者も増えてくると、具体的な場所や、実際の事件を取り上げたりして、過激なことを言いたくなるものです。過去には、特定できる情報を掲載してしまい、出版差し止めになった本もありました。
今の怪談は、エンターテイメントというぼんやりとしたもので許してもらっている部分がある。僕らのカルチャーは少し人気が出ただけで、まだ成熟はしていません。ここから試練の時が何回か来ると思っています。
――話し手としてのリテラシーが求められるのですね。
夜馬裕:演者はそれぞれ自分なりのルールを持っていた方がいいと思っています。僕は二つあって、一つは実際に起きた事件の話は、よほどクローズドな場でなければ話すことはありません。殺された人が亡霊になって、誰かを祟っているなんて話、遺族の人が聞いたら、どのように感じるか想像に難くありません。
もう一つは水子の話です。女性が中絶をする権利は、現代の人間が手に入れた権利の一つ。水子の話は聞かされることも多いですが、ユーザーや読者のなかにも中絶した経験がある方はいると思うので、男の僕が話すことではないと思っています。
――では聞き手は、どのように実話怪談を楽しむのがいいでしょうか。
夜馬裕:実話怪談は、嘘か本当かって言われると、すごく難しい。だって体験した人だって、裏なんて取れないですから。そういう、多少ロマンチックなものという前提で聞いてほしいです。そして聞き手の方にもリテラシーを持ってもらえるといいですね。そして、語り手に「これってどうなの?」と投げかけてもらえると、より盛り上がり、ゆくゆくは怪談というカルチャー全体がもっと成熟していくと思います。