堂場瞬一は一日5時間しか執筆しない!? 最新作は自身の体験と飽くなき好奇心から生まれた、大正時代の作家と編集者を描く『ポップ・フィクション』
更新日:2024/10/21
大正から昭和初期という日本全体に勢いがあった時代。月刊誌は当時のメディアの最先端だった。そんな月刊誌の編集部を舞台にした小説『ポップ・フィクション』(堂場瞬一/文藝春秋)がこのほど刊行。主人公・松川晴喜は三誌の編集部を渡り歩き、その情熱を雑誌作りに捧げる。彼と、同じく雑誌作りに関わる編集者、小説に心血を注ぐ作家らの姿が熱く描かれる一冊だ。
著者である堂場瞬一さんはすでに警察小説、スポーツ小説と二つのジャンルでその名を知られるベテラン作家。そんな彼が全く新しいテーマを選んだのはなぜなのか。そしてデビュー15年で書籍刊行100冊を突破、以降も驚くべきスピードで作品を世に出し続ける堂場さんの仕事術についても伺った。
出版業界が元気な時代、前向きな志を持った人を書きたい
――『ポップ・フィクション』は大正時代の出版業界を舞台にした物語ですが、本作が生まれた経緯から教えてください。
堂場瞬一さん(以下、堂場):日本のメディア史について書きたいなと10年くらい前から考えていたんです。中でも「出版業界が元気だった時代を取り上げたい」とたどり着いたのがこの大正から昭和にかけて、いわゆる月刊誌の全盛時代です。この時代の元気のいい雑誌界隈の話を書こうと決まったのが一昨年から去年にかけてのことでした。
――そもそもメディア史をやってみようと考えたのはなぜでしょうか?
堂場:自分がいる業界は、エピソードに事欠かないし非常に面白いんですよ。ノンフィクション的に紹介するものは過去にも多くあったと思いますが、小説として書いてみたいなと。例えば近代的な印刷技術は、日本では明治時代に本格的に導入されたのですが、調べていくと面白い。でも話が技術的、専門的になってしまうんですよね。だからまずは出版、その中でも月刊誌の話と決めました。今後、印刷技術の話も書きたいですし、テレビ・週刊誌・インターネットと、メディア史として書きたいテーマはまだまだあります。
――それもぜひ読みたいです。そんな中でも雑誌編集者を主人公にした理由はありますか?
堂場:編集者というのは僕ら小説家に一番近しい立場の人ですし、業界の栄枯盛衰を一番わかっている人ですから。すごく景気のよかった時代、「あなたたちの先輩はいい思いをしてたんですよ」というのを明るく描きたかったんです。それに雑誌は当時最先端のメディアだったんですよね。そこにいる人にはすごく前向きな志があって、まあ儲け根性でもありますが(笑)、そういうのが一番詰まった時代に雑誌を作っている人を魅力的に感じました。主人公は架空の人物ですが、彼という雑誌編集者を元気な時代の象徴として書いてみようと。
――現代を舞台に小説を書かれるときは、舞台となる街を実際に歩いたりされると伺ったのですが、今回はどうやってイメージを固めていったんでしょうか?
堂場:今回は舞台となる街よりも、当時の雑誌を取り巻く雰囲気がどんなものだったのかを資料を読んだりして調べました。幸い日本の出版社は昔の本を多く残してくれているので資料は問題なく集まったのですが、とにかく量が膨大で。結構時間をかけて読みましたね。創刊号を読んで、「こういうのが流行ってるのか」とか「こんなくだらないこともやってるのか」とか。今でも続いているものがあったりと、発見は多かったです。
――堂場さんはすでに警察小説やスポーツ小説で地位を確立されていると思うのですが、その上で新しいことに挑戦する原動力はどこから来るのでしょうか?
堂場:いや、書きたいから書いているだけで、志みたいなものはないですよ。やりたくないことは書きたくないですから。もともと興味の範囲が広いので「これを書きたい」というものはすごくたくさんあるのですが、時間が足りない。ただ書きたいものがなくなったら作家としては終わりだと思っています。これからもいろいろな分野を書く予定ですが、それでも死ぬときに「あれが書けなかった、これが書けなかった」と言いながら死ぬんだろうなと思いますね(笑)。後悔しながら死にたいです。