堂場瞬一は一日5時間しか執筆しない!? 最新作は自身の体験と飽くなき好奇心から生まれた、大正時代の作家と編集者を描く『ポップ・フィクション』

文芸・カルチャー

更新日:2024/10/21

インターネット黎明期での体験が、本作に繋がっている

――先の対談では、プロットが決まっても書いている途中で変わっていくところもあるともおっしゃっていました。

堂場:「どうしてもそっちに引きずられていっちゃう」というときがあるんです。ちょっと余計な一言を書いたがために、それに引きずられて話がずれていっちゃうとか。それが面白いんですよ。そこから編集者を納得させられるようにしっかり整合性を高めていく作業が最高の醍醐味です。変えなきゃいけないなと筆が動いちゃったときって、だいたい良い方向に行くと信じているので。

――考えているのは自分でも、コントロールできない感覚ということですか?

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堂場:そう、自分が書いているんだからコントロールできないはずはないのに、なぜか途中で手を離れてどこかへいっちゃう。そういう瞬間があるんですよね。

――それで言うと今回登場の頻度が変わったキャラクターはいますか?

堂場:谷崎(潤一郎)かな。谷崎に関しては世間の印象もいろいろあると思いますが、面倒見がいい人だと思います。すごく人間くさい面もありますし。だから使いたくなっちゃう。結構キーパーソンになったと思います。

――もう一人、実在する人物では徳川夢声さんが出てきますよね。徳川さんの場合はかなりやり取りも細かく書かれていたと思うのですが。

堂場:あの人が好きなんですよ。僕の作品の中では2回目の登場になりますが、すごい人なんですよね。マルチタレントのはしりなんてよく言われていますけど、すべてにおいて揺籃期の人なんですよ。映画が日本で上映されるようになって活動弁士を始めたんだけど、トーキーの時代がきて仕事がなくなっちゃって。今度はラジオに進出して、小説も書き始める。そういう始まりの時期、右も左もわからない時期に、なんだかわからないけど頑張る人に興味があるんです。僕自身もインターネットの黎明期にちょこちょこ関連の仕事をしていたので、なんだかわからない時期にやってみるのはすごく面白いなというのは実際の経験として感じていて。そういうのが根っこにあるから、メディア史の中でも初期の時代を書きたかったというのもあるんだと思いますね。

――確かに今回創刊から描かれる雑誌『エース』はまさにそのものですね。

堂場:手探りしながらやっていくという意味では、小説は毎回そうですけどね。こんなに長い歴史のある娯楽だけど、書き方は毎回手探りだし、どんなに予定を立てても書き上げてみないとわからない。やっぱりそこが面白いんですよ。

堂場瞬一さん

取材・文=原智香、撮影=川口宗道

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