「六本木の帝王」と呼ばれる親友が、消えた。裏社会を牛耳る男、各国の謀略――巨悪に立ち向かう探偵の、熱い友情に心が震えるハードボイルド小説
PR 公開日:2024/10/17
ハードボイルド作家・大沢在昌氏のデビューのきっかけとなった小説推理新人賞受賞作「感傷の街角」。その主人公が活躍する「佐久間公シリーズ」は、大沢氏の代表作のひとつだ。そんな彼の原点とも言えるこのシリーズがこのたび、「新装版」として4作連続で復刊。その第4弾として『追跡者の血統 <新装版>』(双葉社)が、10月9日に発売された。
『追跡者の血統』は、20代前半の若き佐久間公が失踪人を追う中で国家の陰謀に巻き込まれた『標的走路』に続く、佐久間公シリーズ長編2作目。法律事務所の失踪調査人としてのキャリアも10年を超えた公が今回、探すのは、長年の男友達だ。
佐久間公は、若者の失踪が増える繁忙期の夏を乗り越えて、ある仕事を区切りに休暇に入ろうとしていた。失踪人探しの仕事に協力してくれた悪友・沢辺と夜の街を楽しんで別れた後、自宅で過ごす公のもとに、沢辺の腹違いの妹・羊子が訪れる。会う約束をしていた兄と連絡がとれなくなったと彼女は言う。
沢辺は関西の大物の御落胤で、金にも遊ぶ相手にも困らない男。いかつい体と切れる頭脳、甘いマスクで周りを惹き付ける。公と沢辺のふたりは、悪態をつき合いながらも、休日には共にビリヤードに興じ、互いのことを誰よりも理解し、相手のピンチに駆けつける関係だ。公は、屈強で、大概のことは自力で切り抜けられる沢辺が失踪したことに動揺する。そんな沢辺の行方を追ううちに、彼の失踪には、裏社会を牛耳る外国人や、国際的な組織が絡んでいることが明らかになり――。
短編集・長編あわせて佐久間公シリーズ4作目となる本作には、公の上司である元刑事の課長、警視庁捜査一課の皆川、内閣調査室の梶本といったシリーズのオールスターが登場。探偵としての能力や覚悟が、頭も体もキレまくる優秀な男たちに認められてきた公は、彼らの力を借りながら真相に迫っていく。各国の謀略も絡み合い、想像を絶するほど入り組む事態において、「沢辺を探す」という目的にひた走る公の一本気が引き立つ。
そして本作の最大の魅力は、シリーズ史上もっとも佐久間公の内面に迫っていることだ。沢辺は、身寄りがなく、身も心も削られる失踪人調査の仕事に就く公を支えてきた存在。そんな彼の失踪、そして沢辺の妹であるシンガーソングライター・羊子の魅力にも、公の心は揺れる。沢辺や羊子、海外留学中の恋人だけでなく、30歳を超えた自らの生き方にも思いを馳せる公の姿は人間臭く、チャーミングだ。さらに、物語が進む中で、公が失踪調査人になった理由や、彼の「追跡者」としてのルーツに迫る事実も明らかになっていく。
本作の初版は1986年。デビューから約6年、作家として着実にキャリアを重ねてきた大沢在昌氏の筆致が冴えわたる本作は、アクション、ミステリのスリルに満ちた濃厚なハードボイルドであると同時に、迷いながら、親友への思いを胸にひた走る男の青春物語だ。
文=川辺美希