あえて「ツッコまない」勇気/ツッコミのお作法⑥

小説・エッセイ

公開日:2024/12/9

バラエティ番組の現場は常に「チーム戦」

お笑いの世界でも、無理してツッコもうとしないほうがいいシーンは確実に存在します。

最近、とある番組に呼ばれたときに「絶対に無理して前に出ないでください」とスタッフさんから事前に言われました。過去になんとか笑いをとろうと無理して前に出た人がいて、うまくいかなかったことが多々あったんだろうなという口ぶりでした。とにかく無理しないようにした結果、ひな壇でじっとしていたら収録が終わりました。ギャラ泥棒をしてしまって申し訳ない気持ちもありますが、スタッフさんとしては無理されるよりはよっぽどよかったのかなとも思います。

この仕事をしていてよく思うのが、バラエティ番組はチーム戦だということです。全員が均等に笑いを取るのはなかなか難しいし、ましてや「自分が絶対いちばん笑いを取る」と勇んだところでなんとかなるものではありません。

「今日の流れとここまでのパフォーマンスでいったら、今日はAさんが点を獲るぞ。BさんやCさんはその分目立たなくなっちゃうけど、番組としては絶対にそっちのほうがいいな」

みんながそう考えている中で「いや、俺はAさんより笑いをとれる」とBさんが出てきたらチームの邪魔になってしまいますし、また新たに流れをみんなで構築しなければならなくなります。

ある日『マルコポロリ!』(カンテレ)を観ていた時のこと。その回に出演していたサツマカワRPGが場の流れを止めてすこし前の話に戻して自分のフィールドに持っていこうと試みていましたが、その時はあまりうまくいってませんでした。僕もサツマカワの気持ちはよくわかるし、収録も終わりが近づいていてなんとか最後に笑いをとりたかった一心だったと思います。ただ、運が悪かったのがスタジオに永野さんもいらっしゃったということ。サツマカワの行動にスイッチが入った永野さんは激昂します。

「今こうやってお前が変なこと言って、スタッフさんも盛り上がっているように見えるけど、みんな終わりに向けて音を出してるだけで、別にウケてるわけじゃないからな。お前今日、新幹線で泣いて帰れよ!」

こんな澱みない罵倒、初めて見ました。現にサツマカワはこの日泣きながら東京に帰ったとのこと。かわいそうに。しかしこの一連がとても面白かったことからその後もマルコポロリ内でたびたび取り上げられ、結果的にサツマカワの人柄や可愛さが出て良い方向に転んだと思います。しかしこれはだいぶレアなケースで再現性はかなり低く、基本的には無理せずじっとしておくのが吉です。近くに永野さんがいる場合は特に。

仕事においてはときに前に出すぎないのも大事

「自分が自分が」で現場を乱す人と、「今日は何もできなかったな。置物になっちゃったな」という人だったら、たぶん後者のほうが次にまた呼ばれる可能性が高いと思います。スタッフさんは「笑いをとってほしい」「個性を活かしてほしい」と思い、それができるという信頼があるからこそ我々を呼んでくれています。そこで奮わなかったとき、芸人としては「期待に応えられなかった」と反省しますが、スタッフさんはスタッフさんで「出ていただいたのに輝かせられなかった」と反省されることがあるそうです。

その話を初めて聞いたとき、「こんな親身になってくれていたんだ」と気づきました。そこからは「絶対に爪痕を残すぞ」と力むことなく、チームとして番組が盛り上がることを優先して考えられるようになりました。それからというもの、ただ自分が前に出られなかっただけなことを「番組のためだ」という言い訳で慰めるようにもなってしまったので考えものですね。

ひとつの番組が人生のすべてではありません。お笑いでいうところの“かかってる”状態、つまりは意気込みすぎて空回りしている若手に対して「今日売れようとすんな」みたいなツッコミがよくありますが、本当にそうなんだと思います。

バラエティという特殊な場の話が普通の社会でどれだけ応用できるのかわかりませんが、必ずしも常に周りをさしおいて「結果を出そう」と思いすぎなくてもいいんじゃないでしょうか。それで普通に減給とかされちゃったらすみません。

番組収録中に相方のお抹茶と一枚

(取材・文/斎藤岬)

<第7回に続く>

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森本晋太郎(もりもと・しんたろう)/1990年、東京都出身。お笑いトリオ「トンツカタン」のツッコミ担当。プロダクション人力舎のお笑い養成所・スクールJCA21期を経て、現在はテレビやラジオで活躍中。