話題のモキュメンタリーから幻の英国ホラー短編集まで… 秋の夜長に読みたい怖い話6選
公開日:2024/10/19
作者の巧みな表現力が、読者にリアルな恐怖を感じさせてくれるホラー小説。文章ならば大丈夫と侮って軽い気持ちで読んだつもりが、想像以上のリアリティで震え上がってしまったという人もいるのではないだろうか?
今回は怖くて怖くてたまらないのにページを捲る手が止まらない、そんな恐怖の虜になってしまう「怖い話」が収録された本をご紹介したい。
- まとめ記事の目次
- ●フェイクドキュメンタリーQ
- ●お前の死因にとびきりの恐怖を
- ●災厄の絵画史
- ●六人の笛吹き鬼
- ●ゴースト・ハント
- ●世界の幽霊出現録
YouTubeで大きな話題を呼んだモキュメンタリーホラーの金字塔『フェイクドキュメンタリーQ』
YouTubeで絶大な人気を誇る「フェイクドキュメンタリーQ」。昨今流行しているモキュメンタリー(フェイク・ドキュメンタリー)ホラーのパイオニア的存在として知られるチャンネルで、本稿で紹介するのは2024年7月に刊行された書籍版だ。6万部突破し、12の「恐怖動画・音声QRコード」が付いた体験型のホラー本になっている。
同書は「この人、行方不明」というテーマのもと、チャンネル内で人気の高い動画を文章化したホラー短編集。テレビスタッフを呪った「見たら死ぬ呪いのビデオ」の行方を新たに発掘する様子を描いたり、エレベーターで失踪した女性がカメラに向かって何を訴えていたかが明らかになったり……。動画とはまた違う恐怖と、考察要素を含んだ1冊となっている。
さらに動画未公開の書下ろし作品も2作収録されているため、初見の人はもちろん、すでに本家を視聴済みという人にもオススメだ。
今までの怪談小説を覆す!? 新感覚のホラーモキュメンタリー『お前の死因にとびきりの恐怖を』
物語の発端は、文芸部の片隅で見つかったUSBメモリ。そこには、ある男子学生の「死」に関する情報が集められている。男子学生の死因は「自殺」とされているが、発見現場には不可解な点がいくつか残されていた。睡眠薬の錠剤とともに床に散乱しているビリビリに破かれたお札らしき何か、口内に絡みついた自身の毛髪……。それらの痕跡は、まるで恐怖に苦しんだ結果、超自然的な儀式に手を染めたかのようで――。
フィクションとは思えないリアリティと、根源的な恐怖を突き付けてくる『お前の死因にとびきりの恐怖を』(梨/イースト・プレス)。人間は何に恐怖を感じるのか。死そのものなのか幽霊なのか、あるいは人間関係なのか……。果たして真の「恐怖」とは何なのか、その答えの一端が見つかるかもしれない。
これは運命に翻弄される人々の真実…『災厄の絵画史』
作家でドイツ文学者としても活躍する中野京子氏の「怖い絵」シリーズ。「恐怖」という切り口で名画に隠された残酷な物語や歴史の暗部に迫る内容で人気を博し、2022年には異例の舞台化を果たした。
そんな中野氏が2022年に手掛けた『災厄の絵画史』(日本経済新聞出版)では、パンデミックや飢餓、戦争や天変地異などをテーマにした名画から、災厄と戦い続けた人類の歴史を掘り下げていく。同書で紹介されているのは、ミケランジェロ・ブオナローティの「大洪水(ノアの方舟)」やピーテル・パウル・ルーベンスの「平和と戦争」と「戦争の惨禍」、エドヴァルド・ムンクの「病める子」などなど。
それぞれに込められた画家の思いや作品が生み出された背景など、歴史書としても楽しめるはず。人類が感じてきた本質的な恐怖を味わえるのは、この本ならではの魅力だろう。
本格的なホラーミステリを綴った『六人の笛吹き鬼』
「刀城言耶」シリーズや「死相学探偵」シリーズなどで知られるホラー作家の三津田信三氏が2024年に手掛けた『六人の笛吹き鬼』(中央公論新社)も、「怖い話」フリークにピッタリな1冊。三津田作品に度々登場する摩館市のとある公園を舞台に、「笛吹き鬼」を巡る物語が展開されていく。
「笛吹き鬼」は、鬼が笛を吹きながら隠れた子どもたちを探す鬼ごっこ。公園では6人の少女が遊んでいたのだが、鬼の笛とは違う別の奇妙な笛の音が鳴ったとき、ひとりずつ姿を消してしまい探しても見つからなかった。その数年後、当事者のひとりでホラー作家となった背教聖衣子はこの事件を調べ始め、やがて眠っていた「笛吹き鬼」が蘇ることに……。
まるで鬼に追われているかのごとく、怒涛のホラーが襲いかかってくる本書。知られざる「笛吹き鬼」の真相を目の当たりにしたとき、きっとこれまでにない恐怖を味わえるはずだ。
H・R・ウェイクフィールドが手掛けた幻のホラー短編集『ゴースト・ハント』
海外作家のホラー小説は、国内作品とはまた一味違った恐怖が楽しめる。中でもイギリスを代表する怪奇作家、H・R・ウェイクフィールドの短編集『ゴースト・ハント』(創元推理文庫/東京創元社)は、今だからこそ読んでほしい1冊。というのも『ゴースト・ハント』は2012年に文庫化されたのだが、長らく品切れ状態が続き入手が困難に。
しかし2024年4月から開催されている「東京創元社創立70周年フェア」にて記念復刊されている。その中から、表題作となっている「ゴースト・ハント」を紹介しよう。同作は、30人にも及ぶ自殺者を出したという異様な来歴の邸宅が舞台となった物語。この家をラジオ番組「ゴースト・ハント」の司会を務めるトニー・ウェルドンと、心霊研究の大家であるミニヨン教授が探索することに。
そこで彼らに襲いかかる恐怖の数々が綴られていくのだが、ラジオ中継という設定なので読者はトニーたちが体験する恐ろしい出来事をラジオ感覚で知ることとなる。まるでリアルタイムに放送されているような臨場感、そして英国怪奇小説ならではの上品さ。国産のホラーに飽きてきてしまったという人にもオススメだ。
嘘か真かゴーストの目撃情報を集めた『世界の幽霊出現録』
ホラーを構成する上で基本とも言えるのが、幽霊の存在。なぜ怖いと思うのか、それはおそらく実在しているのかどうか分からないから……ではないだろうか? そんな幽霊の目撃情報を集めたのが、2021年刊行の『世界の幽霊出現録』(ブライアン・インズ:著、大島聡子:訳/日経ナショナル ジオグラフィック)だ。
『世界の幽霊出現録』には、紀元前から現代まで各地に残る幽霊の目撃情報が収録されている。例えば17世紀初めにスコットランドのファイビー城で何度も目撃されたという光る女性の幽霊(グリーン・レディー)や、1977年から78年にかけてイギリスで発生したポルターガイスト事件「エンフィールドの魔女」など。
それぞれ新聞や手紙、報告者といった残された資料をもとに経緯から結果までが解説されている。果たして幽霊は実在するのか、その重大な手がかりが見つかるかもしれない。
いずれも秋の夜長にピッタリな作品ばかり。刺激的な恐怖を味わいたい人は、ぜひチェックしてみてほしい。
文=ハララ書房