ハリソン山中 次なるターゲットは北海道のリゾート誘致予定地! 服役中の拓海も活躍する続編『地面師たち ファイナル・ベッツ』の見どころをレビュー
PR 公開日:2024/10/19
地主になりすまして、不動産売買の詐欺を働く「地面師」。その存在が世間の耳目を集めたのは、2017年に積水ハウスが約55億円を騙し取られた事件でのこと。Netflixでドラマ化された新庄耕さんの小説『地面師たち』(集英社)は、その事件を受けて執筆されたクライム小説だ。
地面師たちの手口は用意周到ではあるものの、隙がないとは言い難く、ときに杜撰ですらある。実際の事件でも、地面師の関与を疑う声もあがっていたのに、なぜ大手企業の社員がみすみす騙されてしまうのか。そしてなぜ、地面師たちは顔をさらして捕まるリスクを負いながらも、その犯罪に手を染めるのか。白熱の展開に食い入るようにドラマを観た人も多いだろうが、小説ではその人間心理が、つぶさに描かれ、決して他人事ではないと思わされる恐怖がある。人は、自分の信じたいものを、見たいように見る生き物なのだ。何かおかしい、と気づいていたとしても、そんなはずはないと振り切ってしまう愚かさは、きっと誰のなかにもある。
続編『地面師たち ファイナル・ベッツ』(集英社)は、前作のその後――地面師グループの首謀者・ハリソン山中が新たな仲間を得たところから始まる。シンガポールに飛んだハリソンが、声をかけたのは元サッカー選手の稲田。ギャンブルをやめられず借金を抱え、プロサッカー選手としての地位も名声も失い、シンガポールのカジノで一発逆転を狙う稲田は、持ち金をすべて失うどころか、さらなる巨大な借金を背負うはめになる。最初に勝利の高揚を味わい、欲をかいて一手を重ね、抜け出せなくなっていくその描写は実にリアルで、底をついたその瞬間を狙って声をかけるハリソンの抜け目なさとあわせてぞっとしてしまう。
その後、元芸人だという男も仲間として現れるのだけど、ひとたび表舞台で活躍した人が凋落して裏社会に染まるというのも、リアルだなあと思った。ドロップアウトしてしまうと他につぶしがきかず、華々しい功績もむしろ枷となってしまう。そんな社会の受け皿のなさもまた、犯罪がなくならない理由なのだろうな、と。前作の主人公・拓海と違って、稲田の境遇は自業自得なのだけど、どこかやるせなさを感じてしまい、ついつい犯罪者側にも気持ちを寄せてしまう描写もまた、巧み。合理では割り切れない人間の本質を描いているからこそ、本作はおもしろいのだとしみじみ感じ入る。
今回、ハリソンがターゲットとして狙うのは、苫小牧。IR(統合型リゾート)の誘致を見込んで注目が集まっているその土地を、シンガポールの大手不動産ディベロッパーの御曹司・ケビンに売ろうというのである。父を超えたい一心でもがくケビンは、禅に傾倒する日本びいき。甘ったれの部分はあるが、努力家でもある彼が騙されるのはあまりにかわいそうで、読みながら「気づけ~~~!」とハラハラしてしまうのだけど、なぜか稲田やハリソンが出し抜くことも期待してしまうから、不思議。さらに日本からは、服役中の拓海の協力を得てハリソンを追う刑事の存在もあり、三つ巴の総力戦は、前作以上にスリリング。
〈いまが逆境だとすれば、そこに立ち向かうかぎり、未来への工夫が生まれるはずです〉。まるでヒーローのようなセリフを穏やかに吐くハリソンの張り巡らせた罠は、このたびも成功するのか? その波乱をぜひ、味わってほしい。
文=立花もも