『小説 ドキドキ!プリキュア』は実質2期!? 『ドキプリ』と「小説 プリキュア」シリーズの歴史を確認せよ!【『小説 ドキドキ!プリキュア』1/3】

文芸・カルチャー

PR 更新日:2024/10/28

小説 ドキドキ!プリキュア
©東映アニメーション

 2024年9月17日、待望の小説プリキュアシリーズ第7弾・『小説 ドキドキ!プリキュア』(講談社)がついに発売を迎えた。

 著者は『ドキドキ!プリキュア』でシリーズ構成および脚本を務めた脚本家の山口亮太氏。そして表紙・本文イラストは同作でキャラクターデザインを務めたアニメーターの高橋晃氏。すなわち、お二方ともそれぞれ『ドキプリ』生みの親のひとりである。

 しかも、描かれるのは『ドキプリ』TVシリーズ最終回の「その後」である。こんなの実質2期でしょ!! 俺たちの『ドキプリ』が、また始まった!!

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 本記事では『小説 ドキドキ!プリキュア』をレビューするにあたり、まずは『ドキドキ!プリキュア』と「小説 プリキュア」シリーズの歴史を振り返っていく。

『ドキドキ!プリキュア』ってどんな作品?

 今や説明不要の国民的アニメ、「プリキュア」シリーズ。女児向けアニメとしてスタートし、広く老若男女に受け入れられてきた作品である。そのうち『ドキドキ!プリキュア』は、2024年現在21作品あるTVシリーズのうち10作目にあたる。放送は2013年2月3日に始まった。

 『ドキプリ』に登場するプリキュアは、どこにでもいる普通の少女たち……ではなく、それぞれに稀有な才能や特性を持ち、番組を見ている小さな女の子たちの憧れの的となるようなキャラクターだ。だけど、人並みに悩んだり苦しんだり、時には壁にぶつかったりもする。それまでのプリキュアシリーズと比べて、キャラクターの「成長」の描き方が異なっている点が特徴と言えるだろう。

 『ドキプリ』の世界では、人は誰しも心に「プシュケー」を持っている。自己中心的な考えを抱いてしまった人は、そのプシュケーが黒く染まってしまう。プリキュアが対峙する悪の組織「ジコチュー」の目的は、その黒く染まったプシュケーを抜き取って闇の力で怪物化させ、「ジャネジー」という闇のエネルギーを集めて「キングジコチュー」というラスボスを復活させることだ。

 「地球が大ピンチ! 残された最後のプリキュア!!」――なんとこれは最終決戦でも中間の山場でも何でもなく、物語の最初、第1話のサブタイトルだ。というのもこの作品の舞台である異世界「トランプ王国」は、1話冒頭にして上述ジコチューらの猛攻を受け、早々に滅亡寸前になってしまっているのである。そんな緊迫した状況を、持ち前の利他精神と超人度合いで切り開いていくのが、我らが『ドキプリ』の中心人物、キュアハートこと相田マナだ。

 ここで、彼女について少し語らせてほしい。彼女が平地を走れば、タイムは全国級。階段ダッシュさせれば、超高層タワーのてっぺんまでほとんどバテない。たまに心を折るような事態が起ころうが、トンデモ回復力で力強く私たちのところへ帰ってきてくれる。目の前の相手が困っていたら、泣いていたら、心にみなぎるその愛で、助けてくれる。そんな天性の生徒会長パワーで、放送当時の男児たちをもこっそりメロメロにしたらしいとは友人談。

 しかし完全無欠に見える彼女も、やっぱりどうしようもない状況に置かれれば人並みに傷付くし涙を流す。日常生活では、可愛い芸能人にキャーキャー歓声を上げる。ウェディングドレスにだって憧れを持つ。そういう彼女の纏うカリスマ性と博愛、人間味の全てが、作中人物や視聴者を問わず、あらゆる人々を引きつけてやまないのだ。

 プリキュア史における『ドキプリ』の位置づけについても、紹介しておこう。

 『ふたりはプリキュア』(2004)から『Yes! プリキュア5GoGo!』(2008)までを担当したのが、“プリキュアの父”・鷲尾天プロデューサー。鷲尾P時代では、「ふたり」から始まり多人数チームとしてのプリキュアの基礎を形作ってきた。

 『フレッシュプリキュア!』(2009)から『スマイルプリキュア!』(2012)までを担当したのが、プリキュア中興の祖・梅澤淳稔プロデューサー。梅澤P時代では、エンディングのダンスなど新たな試みを取り入れ、単年ごとに世界観とキャラを一新するスタイルを固めてきた。

 そして『ドキドキ!プリキュア』(2013)から『Go! プリンセスプリキュア』(2015)前半までを担当したのが、3代目の柴田宏明プロデューサーである。

 柴田P時代では、従来シリーズの常識を覆すような斬新な世界観やキャラクターを次々に打ち出した。また『映画プリキュアオールスターズ』のみならずTVシリーズでも、歴代プリキュアの客演や新旧プリキュアバトンタッチなど、プリキュアを「縦糸で結ぶ」試みが本格化した。そこから最終的には鷲尾Pによる全体統括・監修の下で毎年それぞれの若手プロデューサーを中心にシリーズを製作するという、現在も続く体制を確立するに至った。

 『ドキプリ』が生まれたのはそんな、プリキュアがシリーズを長期化させるために大きな転換を遂げようとしていた時期である。

“読むプリキュア”、小説プリキュアシリーズとは

 講談社キャラクター文庫から刊行されている小説プリキュアシリーズは、“読むプリキュア”として番組本編の主要ターゲット層よりも上、中学生以上の世代に向けて刊行されてきた。

 講談社KK文庫から刊行された『物語 Go! プリンセスプリキュア 花とレフィの冒険』(2017)は「小学校中級から」、そして『小説 魔法つかいプリキュア! いま、時間旅行って言いました!?』(2017)は「小学校低学年から」を対象としていた。本文も総ルビで、挿絵も多めに入っていた。それに対して、小説プリキュアシリーズのルビは最低限で、本文中の挿絵も原則として存在しない。(今作は、その限りではない。)

 小説ならではの表現で世界観やキャラクターを掘り下げたり、TVシリーズでは描けない展開を盛り込んだり、様々な試みでプリキュアの新たな魅力を発掘し、世界を広げてきた。

 アニメとは多少異なる印象や雰囲気に戸惑いを覚えるかも知れないが、そのシリーズを大好きな人が読めば、きっとますます作品やキャラクターが大好きになることだろう。

 2015年9月17日に同時刊行された『小説 ふたりはプリキュア』(鐘弘亜樹:著)、『小説 ハートキャッチプリキュア!』(山田隆司:著)を皮切りに、2016年3月17日発売『小説 フレッシュプリキュア!』(前川淳:著)、2016年10月4日発売『小説 スマイルプリキュア!』(小林雄次:著)、2016年11月23日発売『小説 スイートプリキュア♪』(大野敏哉:著)、そして2017年10月19日発売『小説 ふたりはプリキュア マックスハート』(井上亜樹子:著)まで計6冊が刊行された。

 なお「鐘弘亜樹」というのは井上亜樹子氏の別名義で、お父様の井上敏樹氏も同じ講談社キャラクター文庫から『小説 仮面ライダー龍騎』、『小説 仮面ライダーファイズ』を刊行している。

 そして、小説プリキュアシリーズ既刊6冊はプリキュア20周年に沸く2023年2月8日、揃って新装版として再刊されている。

気分は新シリーズ!? 次々と押し寄せる告知!

 最後の刊行から7年。小説プリキュアシリーズは、15周年、20周年と二度にわたる大きな周年を経てなお、長い沈黙を保ち続けていた。

 それが破られたのは2024年1月26日金曜日、午前8時30分。『ドキドキ!プリキュア』本放送最終回から、ぴったり10年を迎えた瞬間のことだった。Xのプリキュアシリーズ公式アカウントより、キャラクターデザイン・高橋晃氏の描き下ろし表紙イラストとともに、「『小説 ドキドキ!プリキュア』出版決定」が告知されたのだ。

 同1月20・21日開催『全プリキュア20th Anniversary LIVE!』の感動もまだ温かく、『ひろがるスカイ!プリキュア』最終回の放送を2日後に控え、プリキュア20周年アニバーサリーイヤーが締めくくりに入る――というタイミングでの、寝耳に水の知らせだった。

 その“公式のひと声”は瞬く間に、全世界の『ドキプリ』ファンの“心(プシュケー)”に火を付けた――“幻想(ユメ)”じゃねえよな…!?

 そう。『小説 ドキドキ!プリキュア』は、プロモーションの時点で従来とは一線を画していた。まるで映画や新シリーズの情報がじわじわと明かされていくように、様々な節目ごとにファンの期待を盛り上げる情報解禁が公式SNS他で次々と畳みかけられてきた。

 そして2024年7月4日木曜日、20:00。TOKYO MXで『ドキプリ』第40話「とどけたい思い!まこぴー新曲発表!」の再放送が終わった直後。3人分の謎のシルエットとともに、小説の発売日と価格、ページ数が同じくX公式アカウントで公開された。

 特徴的な頭部の装飾を持つ2人については、熱心なファンたちは過去の山口氏へのインタビューからすぐにその正体を理解した。そして中には、3人目の正体をも言い当てたファンすらいた。

 2024年8月4日日曜日、午前8:00。キュアハート・相田マナの誕生日、そして彼女を演じた声優・生天目仁美氏の誕生日でもある。またも謎の新キャラクターのシルエットがXで公開された。しかもその手には、あの「ミラクルドラゴングレイブ」が握られている。

 まさか、ついに“彼女”がプリキュアに……? Xでの告知ポストは100万インプレッションを突破し、ファンの期待は最高潮に達した。

 2024年9月5日木曜日、20:00。1年間にわたったTOKYO MXでの『ドキプリ』再放送が、無事に最終回まで完走した直後のこと。今度は帯付きの表紙画像とともに、本文の一部、そして章サブタイトル「第50話 レジーナ落第!?小学生からやり直せ!」がまたXで公開された。

 『ドキプリ』の空気感をそのまま小説に詰め込まれていることに郷愁と安堵を覚える一方で、プリキュアであることが周知となったまま中学校生活を営むプリキュア史上でも珍しい世界観に、思わず息を吞んだ。

 そして2024年9月14日土曜日、午前9:00。前日から公開の『わんだふるぷりきゅあ!ざ・むーびー! ドキドキ♡ゲームの世界で大冒険!』における衝撃の展開がニュースとして駆け巡っていたさなかに、7月4日に公開されていたシルエットが完全なフルカラーイラストとしてXで発表された。ジコチューらしき2人の正体は明らかで、残る1人も髪や瞳の色から容易に察しはついた。

 間髪を入れず翌9月15日日曜日、午前9:00。今度は8月4日公開のシルエットが、完全フルカラーイラストとして発表された。その姿は確かにプリキュアのそれで、レジーナの持つミラクルドラゴングレイブを携えている。そしてその瞳は、意味深なオッドアイだ。瞬く間に250万インプレッションを突破し、「レジーナ」は2日連続でトレンド入りする事態になった。

 さらに翌9月16日月曜日、午前9:00。5人のプリキュアとレジーナを演じる6人の声優さんが一堂に会した写真とともに、「プリキュア公式YouTubeチャンネルで発売記念番組の配信が決定」という驚きの告知が飛び込んできた。

 これはもはや、「関連書籍」や「スピンオフ」といった次元を遙かに超えている。アニメにとどまらず舞台など様々な形態で本格的なメディアミックス展開を見せ始めたプリキュアシリーズが、今度は小説というフィールドで「『ドキドキ!プリキュア』の5クール目以降」という新たなラインを立ち上げようとしているかのようにさえ思える。

文=祥太(SHOWTIME)

<第2回へ続く>

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