『小説 ドキドキ!プリキュア』の見どころはここだ! 1周目でも2周目でも楽しめる読み方を伝授【『小説 ドキドキ!プリキュア』2/3】

文芸・カルチャー

更新日:2024/10/28

小説 ドキドキ!プリキュア
©東映アニメーション

 2024年9月17日、待望の小説プリキュアシリーズ第7弾・『小説 ドキドキ!プリキュア』(講談社)がついに発売を迎えた。

 著者は『ドキドキ!プリキュア』でシリーズ構成およびメイン脚本を務めた脚本家の山口亮太氏。そして表紙・本文イラストは同作でキャラクターデザインを務めたアニメーターの高橋晃氏。すなわち、お二方ともそれぞれ『ドキプリ』生みの親のひとりである。

 しかも、描かれるのは『ドキプリ』TVシリーズ最終回の「その後」である。こんなの実質2期でしょ!! 俺たちの『ドキプリ』が、また始まった!!

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 本記事では、そんな『小説 ドキドキ!プリキュア』の推しポイントや見どころを紹介する。ぜひ筆者なりの楽しみ方を実践してみてほしい。

63話?? 71話?! 最終回の続き!!

 今から10年前の2014年、『ドキドキ!プリキュア』TVシリーズは最終回の第49話をもって完結し、次作『ハピネスチャージプリキュア!』にバトンを繋いだ。

 今作の『小説 ドキドキ!プリキュア』は、まず目次を見てとても懐かしくキュンキュンした気持ちになった。章立てが既刊のような「第○章」ではなく、「第50話」から始まる、そしてところどころ飛び飛びの話数になっているのだ。ここまで来るともはや、目次というより5クール目以降の各話一覧である。

 そう、この小説で描かれているのは「『ドキプリ』の放映が最終回の後もそのまま続いていたら……」という、全『ドキプリ』ファンが夢にまで見た世界そのものである。

 筆者はこの目次を見て、10年前の“とあるできごと”を思い出していた。

 2014年5月13日、「『ドキドキ!プリキュア』など800本のアニメを無断アップロードした男性、著作権法違反で逮捕」とのニュースがお茶の間を駆け巡ったのだ。

 事件のニュースに『ドキプリ』の名前が登場した驚きと戸惑いも束の間、次の瞬間『ドキプリ』ファンたちがとった行動は「SNSでの大喜利」であった。誰ともなく「ドキプリ800本が無断公開だってよ」と意図的に誤読して語り始め、そこにたくさんの『ドキプリ』好きが乗っかり、「俺は全800話中650話あたりのトランプ共和国クーデター篇が好き」などと、ありもしない集団幻覚を楽しそうに語り始めたのだ。

 物語には区切りをつけつつ、未来が広がったままプリキュアの活躍は今後も続いていく――というプリキュア史上とても稀有な結末を迎えた『ドキプリ』ならではの現象である。それほどまでに『ドキプリ』ファンはみな、物語の「続き」を思い思いに夢見ていた。

 ちなみに、上述の事件における実際の逮捕容疑は「『ドキドキ!プリキュア』2話分のアップロード」であった。

まさかのストーリーテラー!? 六花またしても悩む!

 『小説 ドキドキ!プリキュア』は、一人称形式で書かれている。その点では、章ごとに5人それぞれの視点で書かれた『小説 スマイルプリキュア!』、響視点で書かれた『小説 スイートプリキュア♪』に共通している。

 しかしそのストーリーテラーが主人公である相田マナ……ではなく、彼女を公私にわたって献身的にサポートする大親友、キュアダイヤモンド・菱川六花になっているのだ。

 ストーリーテラーが六花ということで、『Yes! プリキュア5』夏木りん、『トロピカル〜ジュ!プリキュア』滝沢あすか、『ひろがるスカイ!プリキュア』虹ヶ丘ましろ他、歴代のツッコミキュアに肩を並べるプリキュア界随一のツッコミクイーン・菱川六花によるキレッキレのツッコミ芸が全編にわたって冴え渡っている。どんなに重苦しい展開や大ピンチであっても、六花の軽妙な語り口に助けられて心折れずに読み進めることができる。

 彼女の苦悩や愚痴が地の文からダイレクトに伝わってきて、菱川ファンとしてはたまらない。菱川フィルターを通して体験する相田マナも、アニメとはまた違った新鮮味がある。六花が不在の場面についても、「後から聞いた」伝聞というテイでしっかりと六花の口から語られる。

 そして、菱川フィルターを通したイーラとのやり取りも必見だ。思いのほか強い感情が向けられていて、面食らってしまった。

会いに来たよ! ドキプリふたたび!

 『小説 ドキドキ!プリキュア』を読み始めた瞬間に、「あの頃」が帰ってきた。頭の中では声優さんたちの賑やかな声が聞こえ、高木洋氏による劇伴音楽が奏でられ、石野貴久氏による効果音があちこちで鳴り響く。この体験は紛れもなく、私たちの愛する『ドキドキ!プリキュア』である。

 山口氏の描写力も卓越しており、レジーナも含めると歴代プリキュア最大級の6人チームであるにもかかわらず、地の文での言及がなくても誰の台詞かわかるくらいに各々のキャラが立っている。誰の台詞なのか考えるまでもなく、「本人の声で聞こえてきてしまう」のだ。この感覚、『ドキプリ』をこじらせた人なら理解してもらえるよね???

 また物語がしっかり『映画ドキドキ!プリキュア マナ結婚!!? 未来に繋ぐ希望のドレス』(2013)にもリンクしているのも、ファンとしては嬉しい限りだ。同作は第26回東京国際映画祭・特別招待作品であり、筆者にとってはワールドプレミア上映のチケットを勝ち取って嵐の中を六本木ヒルズまで出かけていった思い出深い作品になった。あの時は服も靴も雨でびしょ濡れになったが、それ以上に自分の大好きだった祖母や従姉妹の飼っていた仲良しの犬を物語に重ねて、家に帰るまでぐちゃぐちゃに泣きはらしていた覚えがある。

回収したい謎! まこぴー本名発表!

 今作『小説 ドキドキ!プリキュア』では、TVシリーズ当時に作品で使用されなかった設定や未解明事項など様々な「謎」を、これでもかと一気に回収にかかっている。

 すぐに思い付くだけでも、これだけの謎が解明、もしくは合理的な説明が試みられている。

●トランプ王国出身であるキュアソード、剣崎真琴の本名
●トランプ王国の人々と日本語で会話が成立している理由
●本編に登場しなかったジコチュー幹部、ルスト&ゴーマ
●本編に登場しなかった四葉ありすの兄、四葉ヒロミチ
●キュアソードより前にトランプ王国を守護していた先輩プリキュアたち
●円亜久里の本当の誕生日
●レジーナはミラクルドラゴングレイブをどこに収納しているのか
●ジコチューに破壊された街が「例の不思議な力」で修復される現象

 これらの中には放送直後から山口氏によって様々な媒体で明かされていたものもあるが、今回晴れて正式に作品として組み入れられた。本文を読み進めるうちに、懐かしいあの頃――新たな秘密がどんどん明かされて毎週ドキドキキュンキュンしていた本放送時代を思い出していた。

期待を裏切らない男! その名はジョー岡田!!

 『ドキドキ!プリキュア』といえば、「あの男」に触れないわけにはいくまい。“ジョー岡田”ことトランプ共和国初代大統領、ジョナサン・クロンダイクその人である。

 もともと敵か味方かも判然としない不審人物としてプリキュアの前に現れ、物語が進むごとに婚約者であるマリー・アンジュ王女への一途な愛とその誠実な人柄が徐々に明らかになり、株を上げる一方でネタ要員としても絶大な人気を博していったキャラクターである。

 『小説 ドキドキ!プリキュア』でも、岡田はたっぷりと堪能できる。中でも第51話「動き出した影!」での「トランプ共和国大統領官邸……別名・オカダハウス」という記述や、直後に描写された旧王国時代の宮殿に対する改装後の“惨状”は、腹がよじれるほど笑ってしまった。

 中盤では「オカダ仮面」なる謎の人物も登場してカオスに拍車がかかるが、なかなかどうして今回も重要な鍵を握るキーパーソンとして活躍を見せてくれる。

元ネタをさがせ! パロディ&小ネタ満載!

 マナたちの大貝第一中学校2年時の担任は「城戸先生」だが、今回の『小説 ドキドキ!プリキュア』では「山下先生」まで登場している。担任の城戸先生の名前とビジュアルの元ネタは、映画『太陽を盗んだ男』(1979)の主人公・中学校教師の「城戸」である。演じたのはジュリーこと沢田研二氏。その城戸と頭脳戦を繰り広げる熱血刑事が、菅原文太氏演じる「山下」であった。

 さらに中盤からは「水谷警部」という、容姿や口調、仕草が“どこかの誰か”を思い出させる警察官が準レギュラーとして登場してくる。思えば『ドキドキ!プリキュア』は、ドラマ『相棒』とは浅からぬ縁がある。2017年3月22日放送の『相棒』Season15最終回スペシャルでは、水谷豊氏扮する主人公の杉下右京警部がキュアハートやキュアエースのシールが貼られたカレンダーの写真を指して「このプリキュア、2010年にはまだ登場していません」という台詞を発する一幕もあった。この回は、今なおプリキュアファンの間では伝説として語り継がれている。

 個人的には、第66話「注文の多い誕生会」でジコチュー相手に様々な作戦を試みては失敗するプリキュアたちの姿に、『ウルトラマン』第34話「空の贈り物」を思い出した。ジコチューの呼称が閣議決定されるくだりなどは、怪獣特撮映画を彷彿とさせる。

 これらの他にも、今作には『ドキプリ』らしく多種多様なパロディや小ネタがちりばめられている。TVシリーズ第1話で登場し多くのプロレスファンを湧かせ、新日本プロレス棚橋弘至選手も反応した、伝説の長州力vs.橋本真也「コラコラ問答」のパロディもお目にかかれる。

 読み終わったら、それぞれの元ネタを自分で探してみるのも楽しいかも知れない。たとえば筆者は『ドキプリ』がきっかけで、山口氏もお気に入りだという『太陽を盗んだ男』という映画を見て観てみた。こういった形での様々な作品との思いがけない出会いは、きっと人生をより一層豊かにしてくれることだろう。

2周目にオススメ! こんな楽しみ方!

 筆者には、小説プリキュアを読み終えた後の2周目で必ず「やってみる」ことがある。それは、当時の劇伴音楽(BGM)を流しながら読むことだ。

 『ドキドキ!プリキュア』の劇伴音楽を全て揃えた音楽プレイヤーを片手に、小説本文を読みながらシーンを思い描き、「これだ」と思う曲を次々に再生していくのである。

 『ドキプリ』シリーズディレクターの古賀豪監督なら、あるいは各話演出の田中裕太監督や三塚雅人監督、小川孝治監督なら、そして選曲の水野さやかさんなら、どのシーンにどんな曲を当てただろうか。または音楽を当てなかっただろうか……。そんなことを空想しながら、自分でイメージした楽曲をピックアップして流しつつ本文を読み進めていく。とても贅沢で、楽しい時間である。

 私事ながら筆者は2018年発売「プリキュアボーカルベストBOX 2013-2017」に選曲協力で参加し、その際に『ドキプリ』劇伴音楽のうち最後まで残っていたサントラ未収録10曲(バージョン違いも含めて14曲)を全て補完することができた。したがって『ドキプリ』TVシリーズBGMは現在バージョン違いを除く全てのBGMが商品化され、「TVサントラ1」「同2」「2016年春映画サントラ」および上述のBOXで網羅できる。

文=祥太 (SHOWTIME)

<第3回に続く>

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