小林旭、先輩からのイジメに日本刀で対抗!? 超ド級のエピソードに溢れた昭和スターの人生【書評】

文芸・カルチャー

更新日:2024/11/27

小林旭回顧録 マイトガイは死なず"
小林旭回顧録 マイトガイは死なず』(小林旭/文藝春秋)

 ちょっと前になってしまったが、クドカンの大人気ドラマ『不適切にもほどがある!』で描かれた、コンプライアンスなき時代の「昭和」の姿には賛否両論が寄せられた。当事者からすればひたすら「そういう時代だった」としかいえないのだが、若い世代には眉を顰める人々、そんな昭和が「面白い」と思った人々とさまざまにいた。さてそんなみなさんは、このほど登場した『小林旭回顧録 マイトガイは死なず』(小林旭/文藝春秋)に、どんな反応をするだろう。

 小林旭さん(85)は、1950年代終わりから1960年代の日活全盛期を支え、「マイトガイ」(ダイナマイトガイの略)の愛称で親しまれたスター俳優であり、さらには「昔の名前で出ています」「熱き心に」などの大ヒット曲を持つ歌手でもある。生粋の映画人のためドラマをはじめテレビ出演はあまりないが(ご本人曰く、相性が悪いらしい)、2020年よりYouTubeで「マイトガイチャンネル -小林旭 公式YouTube-」を設立し、チャンネル登録者数2万6000人を誇っているのでご存じの方もいるかもしれない。

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 本書はそんな昭和の大スターの全編語り下ろしによる回顧録だ。1938年世田谷に生まれ育った戦中世代の小林さんは、B29が品川あたりを爆撃する模様を屋根によじ登って見物して興奮する幼少期を経て、小学生から武道にも精通してあだ名は「棟梁」。やがて近所の不良に絡まれるも「うるせえな、この野郎」とやり返す身長180センチのイケメン青年に育ち(当然ながらモテモテ)、日活の新人俳優募集「日活ニューフェイス」に見事合格。合格といっても最初は大部屋俳優で(いわゆる下積み)、そこから同世代の大スター石原裕次郎らと競い合う人気者に上り詰め、昭和を代表する歌姫・美空ひばりに惚れられて結婚(2年後に破局)。映画の時代からテレビの時代に移るにつれ「実業家」に転身、借金まみれに――。

 成功あり挫折あり、人生の勢いとスケールがド級すぎて飽きさせないが、随所にあらわれる「豪快」すぎるエピソードも面白い。たとえば大部屋時代に先輩からの酷すぎるイジメに逆上して父所蔵の日本刀を持ち出して先輩を待ち伏せしたとか、アクションはいつもスタント無しで大怪我をしたこともあったとか、根っからの車好きが嵩じてショーウィンドウに並んでいたジャガーの車を全部買ったとか、ゴルフでプロ級の腕前にまで上り詰めゴルフ場経営にまで手を出して数億スったとか…ファンが集まりすぎて電車が止まることもあったそうで、ある意味こうしたことを普通(?)に受け止めていた「昭和のおおらかさ」にも衝撃を受ける。

 同時代の俳優たちとの交流だけでなく、いわゆる「裏社会」との関わりについてもあっけらかんと書かれているのも面白い。当時は裏社会と芸能界の距離は極めて近く、小林さんは『仁義なき戦い』のモデルとなったヤクザ本人と面会して所作を学んだこともあったとのこと。今の時代はあり得ないこうした風情も「昭和」の一断面であり、昨今の任侠物とはリアリティに違いが出るのかも。

 2024年、小林旭さんは日本アカデミー賞協会から長年の貢献と実績を讃えた「会長功労賞」を受け、2026年には芸能活動70周年を迎えるという。もはや多くの先達が世を去った今、「昭和の芸能界」のスターの本音を生で語れる存在は数少なく、その意味でも本書は貴重な記録。「昭和」が気になる人に必読の書なのは間違いない。

文=荒井理恵

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