『夜明けのすべて』瀬尾まいこさん初の絵本。100年後に思いをはせながら、「またあした」が当たり前の世界にしたい《インタビュー》
更新日:2024/10/28
岩崎書店から新たに誕生した絵本シリーズ「100年後えほん」。子どもたちに100年後の未来を夢見てワクワクドキドキしてほしい、という願いから誕生したシリーズだ。その第1弾を飾るのが、『そして、バトンは渡された』『夜明けのすべて』など多数の著作がある、小説家・瀬尾まいこさんの『100ねんごもまたあした』。絵をくりはらたかしさんが担当した1冊で、瀬尾さんにとっては初の絵本となる。
かつて中学校で教鞭をとっていたという瀬尾さんに、小学校を舞台にした本作に込めた思いをうかがいました。
(取材・文=立花もも)
――はじめての絵本、挑戦されてみていかがでしたか?
瀬尾まいこさん(以下、瀬尾) 自分に絵本が書けるなんて、考えたこともなかったんですよね。でも、依頼のメールをいただいたときから(テーマが)「100年後の世界」というのは決まっていて、それは素敵だなあと。「800字から1000字程度」っていうのも、いいなって思いました。短ければ短いほど嬉しいんですよね(笑)。で、メールをもらってその日に「こういうのだったら書けますけど」とざっくり書いたものを送って。
――その日に!?
瀬尾 はい。あんまり難しいことは考えずに、これじゃだめだと言われたらしかたないなあ、と自分に書けるものをお渡ししました。そうしたら、OKをいただいたので、そのままくりはら(たかし)さんからラフがあがってくるのを待って、絵を見ながら言葉を調整して、完成した感じですね。
――最初に「100年後の世界」と聞いたとき、どんなイメージが湧いたんですか?
瀬尾 2年以上前だから、はっきりとは思い出せないんですけど、「100年後の未来なんて!」と驚くほど遠い存在だとは思いませんでした。未来を想像するって素敵だなあ、ってたぶんそれくらいの軽い気持ちだったんじゃないでしょうか。子どもに限らず、誰にとっても、あしたやあさっての延長線上に100年後があって、これから先が楽しみだなと思ってもらえるようなお話になればいいな、と。
――お話は、主人公が図工の時間に「100年後の世界を描いてみましょう」と言われるところから始まります。小学生たちが宇宙人や空を飛べる靴の絵を描いていたりと、しょっぱなから、読んでいるだけでわくわくします。
瀬尾 くりはらさんの絵がまた素晴らしいんですよね。私、これまで絵本を読むときに、あんまりじっくり絵を見たことがなかったんです。でも今回、くりはらさんが細かいところまで描きこんでくださったのを見て、こんなふうに楽しめるんだと改めて実感して……。どんな職業があるだろう? って想像を膨らませているところでは、娘が見て、某YouTuberがいる! って喜んでいましたし、クラス全員の絵がずらりと掲示されているところでは、一枚一枚、個性があふれていて、こんな未来もいいな、あっちもいいな、ってやっぱりわくわくする。もう、言葉なんていらないんじゃないかなって思っちゃうくらい。
――そんななか、主人公の友達のサクヤくんは、画用紙を真っ黒に塗りつぶしましたね。100年後なんか地球は滅びている、お先真っ暗だと言って。
瀬尾 まあ、クラスに2~3人はこういう斜にかまえた子がいるだろうな、と。でも、みんなと一緒にキラキラした絵を描けない子たちだって、心底未来に絶望しているかといえばそういうわけじゃないと思うんですよ。本当に、希望のない未来が来てほしいとも思っていない。先生の言うとおりにキラキラした絵を描くのはちょっといやだし、そもそも上手に描く自信はない。だから「現実なんてこんなもんだ」という態度をとっちゃう子は、教室に何人かいるはずだと。
――瀬尾さんって、子どもたちの感性を同じ目線で理解されているような感じがありますよね。
瀬尾 いやいや。ただ、子どもが好きなのと、うちの子が小学校に入ったばかりのころに、PTAの生活安全部で通学路の周辺をうろうろする役割を担当していたんですよ。そのとき、子どもたちといろんな話をして、何が好きかいっぱい教えてもらいました。ものすごく些細なことだけど、みんな、休み時間が大好きなんだなあとか、どうしていつの時代も揚げパンにあれほど夢中になるんだろう、とか。
――ああ、だから、主人公も「給食の揚げパンが出る回数が2倍になる」という未来の夢を語るんですね。
瀬尾 そう。揚げパンの日は、おかわりの行列ができて、足りないときはじゃんけんになるんですって。砂糖をまぶしているだけなのに、なぜかみんな、必死になるんですよね。