800年に及んだ神と魔族、最後の生存闘争! 人気マンガ『平穏世代の韋駄天達』完結。その意外過ぎる結末とは
公開日:2024/10/29
人間を救う神と、敵対する魔族の戦いを描いた漫画『平穏世代の韋駄天達』(原作:天原、作画:クール教信者/白泉社)の連載が完結、最終9巻が発売になった。
もともと天原によるWeb版が連載されていた本作は、2016年に更新を停止。その後、作画担当にクール教信者を迎え、2018年より「ヤングアニマル」(白泉社)で商業コミック版として物語を再構成して新たに連載がスタート。Web版の内容を追い越し2021年にはTVアニメも放送されていた。
圧倒的な速さと強さの神々“韋駄天”が“魔族”を退けてから800年の月日が流れていた。そこには前時代の戦いを見届けた韋駄天のリンと、この平穏な時代に“生じた”若き韋駄天たちがいた。それがリンのもとで最強を目指して修行を続けるハヤト、腕力より謀略に長けたイースリイ、鳥の言葉が分かる美少女のポーラであった。またハヤトの兄弟子にあたり、彼らとは離れて暮らすプロンテアもいる。
ある日、武力で勢力を強めるゾブル帝国の軍隊が下級魔族を復活させていた。ハヤトたちはこれを発見し、倒す。ただ、現場にはゾブル帝国のオオバミ博士こと、魔王オーバーMがいた。魔族たちは先手必勝と、天敵・韋駄天のもとに最強クラスの魔族を送り込むが、リンにあっさり返り討ちにあってしまう。その後もリン以外の韋駄天たちへ差し向けられた刺客を退け、ハヤトたち4人は魔族を殲滅するためにゾブル帝国に迫る。追い詰められた魔族たちは、覚悟を決めて迎え撃つ――。
本作の見どころは、冒頭にも書いた通り神である韋駄天と魔族のバトルだ。ただ、単純なバトルではない。もちろんド迫力のバトルアクションはあるものの、良い意味で読者の予想を裏切ってくる。
魔族からするとリンをはじめとした韋駄天との力の差は絶望的で、戦いの結果は見えているようだった。しかし魔族には、強力な分析能力と企みをすべて見透かす洞察力を備えたミクがいた。彼女は数名の仲間と帝国を脱出すると人間社会に潜み、生き残った魔王や他の魔族らとコンタクトを取り、権謀術数をめぐらして勝ち筋を探る。真正面から殴り合うのではなく、戦略を練ってゲリラ戦のようなバトルを仕掛けていくのだ。主人公側の韋駄天が圧倒的強者で、その敵である魔族が必死に生き残ろうとするという構図が、かなり特殊でオリジナリティがある。
そして『平穏世代の韋駄天達』の魅力は何といってもキャラクターだ。韋駄天と魔族たちは、人とは異なる倫理観や価値観をもっている。魔族は言うまでもないが、韋駄天たちも「人間が滅びない限りは人間個々の生死は気にしない」というスタンスなのだ。リンにいたっては、魔族を殲滅するために人間ごと国ひとつを滅ぼそうとする。
こんな、言ってしまえば“人でなし”な韋駄天も魔族も、妙な“人間味”があり魅力的なのだ。
韋駄天は「強くなりたい」(ハヤト)や「知りたい」(イースリイ)などの人間くさい欲求に忠実に動いている。一方魔族には、魔族同士の恋愛感情や自分の子どもを守りたいと思う母性をむき出しにし、韋駄天との力の差を知るやいなや焦り、会議で大騒ぎをし、恐怖し、逃げ出そうとする者もいた。余裕のある韋駄天側との対比もあり、このバタバタする描写は笑えてしまう。魔族はどこか憎めない「おもしれーキャラ」である。また、個人的には、最も“人でなし”のように描かれていたリンの変化に注目してほしい。
物語は、韋駄天と魔族両サイドのキャラクターたちを丁寧に描いていく。文字通り“人智を超えた群像劇”なのだ。
ここで、TVアニメ版『平穏世代の韋駄天達』キャストたちから、本作の完結によせたコメントを抜粋して紹介する。
「読むのが怖い…本当に完結したの!?」(ハヤト役:朴璐美)
「予想できない展開の韋駄天の完結はやっぱり予想できず(笑)」(イースリイ役:緒方恵美)
「終わってしまうのは寂しいですが、それよりもどう決着するのか続きが気になりすぎておりました!」(ポーラ役:堀江由衣)
作品関係者はもちろん、Web連載時代から読んでいた古参のファンも感慨深いだろう。本当に終わるのかという方もいるかもしれないが、これは正真正銘ファイナルだ。
9巻最終章で描かれる魔族と韋駄天との戦いは、意外な方向へ向かう。神魔の暴力と知力を尽くした生存闘争の予想もつかない結末とは? そして、古の封印が解かれるとき“最強の韋駄天”のラストバトルが遂に始まる……。
ぜひ“韋駄天と魔族が争った世界の行く末を見届けてほしい。
文=古林恭