土方歳三が「鬼」に取り込まれる?! 累計750万部突破の「心霊探偵八雲」と双璧をなす、幕末ホラーミステリシリーズ、ついに最終章へ!

文芸・カルチャー

PR 公開日:2024/10/29

浮雲心霊奇譚 邪鬼の泪"
浮雲心霊奇譚 邪鬼の泪』(神永学/集英社)

 人間には誰しも鬼の一面がある。表情ひとつ変えずに他人を殺めるような残酷さがある。どうにか自分を偽り、かろうじて理性で抑え込んだとしても、いつそいつに心を食い潰されるか分からない。己を律することができず、欲に溺れるのもまた人間。かの有名な歴史上の人物も、実は自分の中に宿るそんな黒い感情を持て余していたとしたら……。

 名だたる歴史上の人物が数々登場する幕末の江戸を舞台に、おどろおどろしい怪異の謎を描くのが、「浮雲心霊奇譚」シリーズ。シリーズ累計750万部突破の「心霊探偵八雲」と双璧をなす、神永学の幕末ホラーミステリーだ。目元を覆うように巻かれた赤い布と、その下に隠された赤い両眼。その眼で死者の霊を見る、憑きもの落としの浮雲と、幕末の志士・土方歳三らの旅は、最新刊『浮雲心霊奇譚 邪鬼の泪』(神永学/集英社)でついに最終章に突入した。ホラー好き、歴史好き必読。今まで読んだことがなかった人も、これを機にこのシリーズに触れてみてはいかがだろうか。

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 自らの運命に立ち向かうため、土方歳三たちとともに京の都へ向かう浮雲。岡崎宿に着くと、馴染みの医者のところに顔を出したいという歳三と、先に旅籠に向かう浮雲とで二手に分かれることになる。道中、歳三たちが目の当たりにしたのは、惨たらしい少年の死体。かっと目を見開き、半開きの口からだらりと舌が垂れた生首は横倒しで、おまけに腸は身体から引き摺り出されていた。ここ半年、そんな無惨な子どもの骸はいくつも発見されているとのことで、村人たちは、「鬼の仕業」だと噂しているらしい。

 時を同じくして、別行動を取っていた浮雲も、ある寺の住職から「人を喰らう鬼」の伝承を聞く。寺に伝わる鬼の面。戒律を守らずにそれを被った者は、顔から面が取れなくなり、やがて人を喰うようになるのだという。と、その話を聞いた直後にその寺の小僧の死体が見つかり……。

 あまりにも惨い子どもたちの死体と、不気味な伝承。背筋を寒気が走り、思わず声をあげそうになる。それでも浮雲は飄々とした様子で怪異の謎を解き明かそうと手がかりを探していくのだが、歳三は違う。最初こそ冷静だったが、因縁の女・千代との再会に深く心乱されるのだ。「土方歳三」というと、強くて美しい人物像ばかりを思い描きがちだが、もしかしたら、この物語のように常に心に黒い感情を抱え続けてきたのかもしれない。命のやり取りをしているときだけ、生きていることを実感できる歳三の心の歪み。それを利用しようとする魔の手に歳三は落ちてしまうのだろうか。

 薄気味悪い伝承の裏に隠された真実が明らかになるにつれて感じるのは、鬼以上に恐ろしい人間の姿だ。少しでも気に食わなければ目の前のものを容赦なく叩きのめす。どんな人の心にもそんな鬼は住み着いているものなのだろう。人間の残酷さに翻弄されながら、私たちもどこにいきつくか分からない物語に溺れる。一体、歳三はどうなってしまうのか。そして、浮雲は自分の運命とどう決着をつけるのか。焦るようにページをめくらされ、読了。あんなに恐ろしさに震えながら読み進めたのに、ああ、もう続きが気になって仕方がない。彼らの旅はどこにいきつくのだろう。恐ろしくも物悲しい怪異と、怪異以上の残忍さを秘める人間の世界を、あなたも是非とも覗き込んでほしい。

文=アサトーミナミ

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