青春時代の文通から垣間見る心の交流。手紙とイラストで綴られる『ユニコーンレターストーリー』をレビュー
PR 公開日:2024/11/26
『ユニコーンレターストーリー』(北澤平祐/集英社)は、ハルカとミチオが交わす手紙と、彼らの様子を描いたイラストで構成される青春物語だ。
幼馴染のふたりは茅ヶ崎で暮らしていたが、ミチオが家族の都合でアメリカに引っ越してから文通を始める。彼らの手紙はみずみずしくて、あまずっぱい。日本とアメリカ、異なる色を放つ青春のかがやきを、手紙を読むことで追体験できる。一方で、青春はかがやきとおなじくらい影を伴う。ハルカとミチオはそれぞれ悩みを抱え、手紙に吐露することもあれば、相手を想うからこそ明かさないこともある。
これほど遠く離れた地で、手紙のみでつながるふたり。当然、情報や感情のすべてが相手に伝わるわけではない。手紙が相手に届くまでのタイムラグもある。その空白に効いてくるのが、挿絵だ。本作は手紙と挿絵が見開きでセットになっており、挿絵を味わうことで手紙に書かれた内容をより深く理解できる。手紙に書かれた言葉と挿絵の表情の差から、書かなかった本音が推測できる。手紙に書かれていないことが、挿絵で描かれることで明らかになる。このような言葉と絵の掛け合わせで生まれる仕掛けは、新鮮な読書体験を与えてくれる。
また、私は本作から強烈な「なつかしさ」を感じ取った。ハルカとミチオはおそらく1993年から文通を開始しているのだが、手紙には1990~2000年代に流行していた音楽やゲーム、時事ネタなどが登場し、それらの固有名詞から、時代背景をありありと思い浮かべることができる。手紙で紡がれる物語だからこそ、身近にあるものが手に取るように伝わってくる。結果として、物語への没入感が高まる。
ちなみにミチオは音楽が大好きで、ハルカに送る手紙に毎回カセットテープを添えている。手紙の内容や、そのときどきの感情の揺れに合わせた選曲がすばらしい。できれば読者には、曲を実際に聴きながら手紙を読んでみてほしい。先ほど言及した物語への没入感が、一層深まる。従来の小説とは異なる楽しみ方ができることは、本書の魅力のひとつだ。
題名に冠されている“ユニコーン”とは、角がはえた馬の形をしている伝説上の生きものだ。ハルカが好きだということをきっかけに、たびたび異なる形で作中に登場する。最近は、未上場で時価総額が跳ね上がったベンチャー企業をユニコーンに喩えることもあるように、めったにいない逸材を指すニュアンスを持つ言葉だ。「本作におけるユニコーンとは、いったい何の象徴なんだろうか」と想像しながら読み進めていくと、物語後半の展開が味わい深いものになると思う。私の考えをここに書くのは野暮だと思うので、ぜひ本作を手に取り、それぞれ考えを巡らせてほしい。
文=宿木雪樹