『ふつうの軽音部』ELLEGARDENは作品の象徴として選曲。原作者が楽曲セレクトやキャラクター造形を語る【クワハリ先生インタビュー】

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更新日:2024/11/5

■はーとぶれいく誕生秘話(?)

――バンドメンバーの誕生についても教えてください。舞台があり、鳩野のキャラが定まると、そこからバンドメンバーに発想が広がるのでしょうか? たとえば桃は、どう生まれたんですか?

クワハリ:桃は最初は「明るいキャラ」っていう感じで始まったんですけど、ただ明るいだけだと面白くないので、意外性が欲しいし、あとは、最初にいたバンドを解散して主人公のバンドに来てほしいから、今いるバンドの崩壊に繋がるような何か性格が必要なので、ああいう性格になったって感じですね。

――「ああいう性格」というのは?

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クワハリ:ちょっとすねやすいというか、こじれるとすごい意地を張っちゃうみたいなところですね。

――彩目との幼なじみ設定は?

クワハリ:あとから膨らんでいった設定だと思うんですけれど、でも、鳩野と鷹見と同じで、「桃の節句」と「菖蒲(あやめ)の節句」で、名前がセットになっているんですよ。だから元々対になって出てきたキャラクターではありますね。彩目は「ギターはクールな子がいいな」と思ったのが始まりで、あとは……なんですかね?(笑) 気がついたらあんなキャラクターになっていました。

――厘はどうですか? もはや『ふつうの軽音部』の裏主人公的な存在ですが…。

クワハリ:厘は鳩野と桃が違うバンドに入っているから、それを結びつけるようなキャラクターが必要ということで、その役割のために考えたキャラクターです。そこから、無理やりふたつのバンドを解散させて、新しいバンドを作るなんて、どうしてそこまでやるのかを考えたときに、主人公のことを盲信しているキャラクターになりました。

ふつうの軽音部
©︎クワハリ・出内テツオ/集英社

――キャラの設定や先々の展開への伏線は、どう管理されているんでしょう?

クワハリ:管理するというほど、そこまで細かくは決めていないんですよ。先々で「この展開をやりたい」というのはあるんですけど、そこに行くためのルートは全然決まってなくて、直近の展開はもう本当に、ネームを描きながら考えているような感じです。学校生活は割とイベントが決まっているから、それがやりやすい面もあるんですよね。「文化祭があるから、そこでバンドの初ライブをしたい」というのを決めて、どうやってその展開にたどり着くかは描きながら考える、とか。だから、描きながら「なんか全然違う方向に行ったな」みたいな感じのことがあったりもします(笑)。

――それでいうと、鳩野の行動はどれぐらい、先生の予想外に膨らんだところがあるんですか? それこそ連載の直近の回で、アカペラでTHE BLUE HEARTSの「リンダリンダ」を熱唱するシーンは神がかったぶっ飛び具合でしたけど。読みながら、厘と同じ状態でした(笑)。

クワハリ:あはは。あれは本当に思いつきで考えた展開でしたね。描いているうちに、急に何か変なことをするときもあるキャラではあります。

――一番暴走しがちなのは、やっぱり鳩野ですか?

クワハリ:厘ですかね。あの子は結構好きに動きがちで、危ないですよね(笑)。それとヨンス。このふたりは危ない方向に行きがちなので、扱いが怖いですね、ちょっと。

――ヨンスもそうなんですか?

クワハリ:そうです。最近はちょっと成長してきたので大丈夫なんですけど。厘はその点、まだちょっと危ないかな(笑)。

――厘の策略が時々、他人に上回られるバランス感覚がいいなと。けして万能の策士ではない感じがありますよね。

クワハリ:ああ、そうです。僕の認識では、厘は割とおかしな策を出しているんですよ。それで結果的にうまくいっているけど、意外と計画自体はザルなんですよ。読み間違うこともあるし、ポンコツなところもある。

――本当に面白い造形ですよね。自然と出てきたキャラだったんですか?

クワハリ:最初、どうやって出てきたかはもはや思い出せないんですけど、でも多分、あの子は描いているうちにエスカレートしていっている感じですね(笑)。

■「バンドもの」と「人間関係もの」

――作中に登場する実在する楽曲のセレクトは、先生が普段から聴いている邦ロックの中から、シチュエーションやキャラクターに合った曲を選んでいるのでしょうか?

クワハリ:そうですね。

――鳩野が弾き語りでMr.Childrenやスピッツを歌うのに驚きました。NUMBER GIRLや銀杏BOYZだけではなく、守備範囲が広いんだな、と。

クワハリ:ああ、そうですね。鳩野って連載初期のイメージだと、割と偏屈な邦ロックファンみたいなところがあったんです。大メジャーなバンドを馬鹿にしているようなキャラ付けといいますか。でも、作品のメッセージとして、「メジャーだからダサい」みたいな考え方はよくないなと思っていて。だから「鳩野はこういう方向性のバンドは多分好きじゃないな」というキャラクターの大きな部分は変えていないんですけど、鳩野が聴きそうなバンドの中でも、特にメジャーな位置づけのバンドの曲を意識的に使いました。

――それでいうと、鳩野のバンド・はーとぶれいくが初披露するのがELLEGARDENの「ジターバグ」というのも、ド直球な選曲ですよね。しびれました。

クワハリ:実は最初は違う曲をやろうと思っていたんですけど、「ジターバグ」は僕の中で軽音楽部の象徴的な曲なんで、最初のライブでやるのはすごくいいなと、考えているうちに思うようになったんですね。歌詞のメッセージも、作品のメッセージとすごくかぶっていましたし。

――演奏シーンで聴いている人の心にイメージが浮かぶ演出も素敵ですね。

クワハリ:あれはイメージとしては、和歌みたいな感じなんです。といっても、最初からそう考えてやっていたわけではなくて、描いていて後からそんな気がしてきたんですけど(笑)。

――和歌ですか。

クワハリ:登場人物が自分の気持ちをストレートに言うと恥ずかしいし、漫画的にもクサい感じになるんですけど、歌詞に乗せるとちょっといい感じになる。

――そして歌で思いが言葉になると、心の中で過去や夢が……。

クワハリ:イメージになる、ということですね。

――なるほど。曲に関していうと、細かいところですが、作中で演奏される曲は大体曲名がわかるように描かれていますが、9話で鷹見のバンド・protocol.(プロトコル)が演奏した曲は、聴いていた鳩野が曲名を知らなかったこともあって、タイトルが出てませんでしたよね。あのシーンは先生の中では、何か具体的に演奏した曲を決めてあるんですか?

クワハリ:具体的な曲を考えていたんですが、あえてボカしたというか、「この選曲をここで使うのは勿体ないな」という感じで伏せたんです。これから先、使うシーンがあるかもしれないので、ここでも話すのはやめておきます(笑)。

――では最後に、今後の展開について、お話しいただける範囲で伺わせてください。

クワハリ:文化祭が終わった後の展開としては、鳩野のはーとぶれいくと鷹見のprotocol.、ふたつのバンドのぶつかり合いがまず描きたい。あとは策略パート話みたいなも少し描きたいなと思っています。厘の策略面におけるライバルみたいなキャラクターが徐々に前に出てくるかもしれません。

――軍師にはライバルがつきものですもんね。孔明に対する周瑜、司馬懿みたいな……。

クワハリ:そうそう(笑)。音楽ものとしてのドラマと、人間関係の策略みたいな話、これからもその両方をバランスよく描きたいなと思っています。

――急接近している気がしますが、鳩野と水尾はどうなりそうですか?恋愛に発展するのでしょうか。

クワハリ:それは描いている僕にもわからないです(笑)。今の段階だと、恋愛になるまでにはまだだいぶステップを踏まないといけないなと思うんですけどね。本当に、描いていかないとわからないところが多い作品なんです。

ふつうの軽音部
©︎クワハリ・出内テツオ/集英社

取材・文=前田久

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