「読むとえぐられるマンガは一旦卒業」鳥飼茜の新作は「妊娠・中絶」がテーマでも男女4人の会話劇が心地良い! 参考にした「名作ドラマ」《インタビュー》

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公開日:2024/11/20

妊娠中絶は女性の権利であると同時に、男性が関与する問題でもある

――そんな間戸が、実は7年前、電車のホームに落ちたアマネを助けていた、というのが本作の転がりどころです。そのとき協力し合った佐津川という女性とはいまだに交流が続いていて、さらに堂島、木目田という2人の男性とも再会し、4人で交流するようになる。

鳥飼 テイストは違うけど、『先生の白い嘘』と物語の組み立て方は同じなんです。あれは性暴力の話であると同時に、人はそれぞれセックスに対してどういう価値観をもって生きているのか、ということを描きたかった。今回はそれを、出生に対する価値観に変えて、4人のキャラクターをつくっていきました。妊娠中絶はたしかに女性の権利だけれど、当然、男性が関与する問題でもあるわけで。当事者感覚のズレみたいなものが、男女それぞれの立場から描くことで、浮かびあがってくるんじゃないかなあ、と。

鳥飼茜さん

――間戸は、わりと無邪気で素直な、いわゆる普通の迷える20代女性として描かれていて、読者も感情移入しやすいと思うのですが、ほかの3人はどんなふうに生まれたのでしょう。

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鳥飼 佐津川さんについては、母性神話みたいなものから外れた人を描きたかった、というのがありますね。彼女は4人のなかで唯一、子どもを産んだ経験があるんだけれど、離婚した今は子どもと離れて暮らしている。そういう状況を聞くと、多くの人は「なんで?」って思うじゃないですか。父親が引き取ったってことは、母親のほうに何か問題があったのかな、って。でも、問題あるなしにかかわらず、そういう選択をしている人は、世の中にいるんですよね。実際、私も息子と離れて暮らしていますし、母親が子どもを引き取って当然、ではない現実もわりとあるんだよってことを、パターンとして描きたかった。

――背負うものがあまりない20代の間戸と、何かを抱えた感じのある40代・佐津川の対比もいいですよね。2人がどんどん「友達」になっていく過程が好きでした。

鳥飼 佐津川さんに、あんまり後ろ暗さを背負わせようとは思っていないんですけど、長く生きているぶん、間戸ちゃんほど天真爛漫ではいられないよなあ、って(笑)。だから最初は自分のことも開示しないし、素敵なおねえさんぶってみせたりもするんだけど、だんだん間戸ちゃんに甘え始めて、よくも悪くもだらしなくなっていく姿は、私も描いていて楽しいです。

――最近、年齢差のある女性同士の物語が多いような気がしていて。金原ひとみさんの『ナチュラルボーンチキン』(河出書房新社)なんかもそうでしたけど、背負うものも価値観もまるで違うからこそ一緒にいられる、素直に自分と違うものを受けいれられることもあるのかなあ、と。

鳥飼 『ナチュラルボーンチキン』、めちゃくちゃおもしろかったですよね。たしかに、同世代からは悩みに対しても似たり寄ったりの答えしか出てこないけど、若い人からはぎょっとするような発想が聞けて、新鮮だったりする。年収とか、境遇の差もあまり気にならないし、比較しなくていいぶん、肩の力が抜ける。そういう関係性のよさが伝わっているのなら、うれしいです。まあ、そうはいっても、価値観の違いでぶつかることもあるだろうから、うまくいくことばかりじゃないよってことも描いていきたいんですけど(笑)。

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