絵本作家・鈴木のりたけ「子育てで一番重要なことは、忍耐・待つこと」。大ヒット絵本「大ピンチずかん」シリーズに続く最新作『たれてる』誕生秘話

文芸・カルチャー

公開日:2024/11/15

鈴木のりたけさん

「大ピンチずかん」「しごとば」「ゆうぐ」シリーズなど、数々のヒット作を連発してきた絵本作家・鈴木のりたけさん。最新作『たれてる』(ポプラ社)は、過去の作品と一味違った仕上がりとなっている。

『たれてる』が目指すものはなんなのか。3児の父としても知られる鈴木さんに、子育てにおいて大事にしていることもあわせて聞いてみた。

(取材・文=さわだ 撮影=川口宗道)

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「あれ? これ何が面白いんだっけ?」みたいなことはしょっちゅう

――「大ピンチずかん」シリーズや過去の作品と比べて、『たれてる』は文字の量や書き込みが少なく、子どもの想像力をかき立てる作りになっていますね。

鈴木のりたけさん(以下、鈴木) もともとはワンシチュエーションで成立するアイデアをどんどん並べていく絵本を作ろうと思っていたんです。例えば、バナナの皮を剥こうとしたら次のページごと破れてしまうトリックアートだったり、カウボーイが投げ縄を頭上でブンブン回していたらそのまま飛んでいっちゃったり…。そういうものを7年くらい前からずっと考えていました。そんな折、3年前くらいにポプラ社さんから「言葉に頼らない世界で通じる本を作りましょう」とお誘いを受けたんです。

たれてる
たれてる』(ポプラ社)より

――たくさんのアイデアの中から、ひとつを採用したのですね。

鈴木 採用されなかった膨大な数のアイデアたちにも、陽の目を見させてあげたいんですけどね。

――「たれる」というアイデアは、どのようにして生まれたんですか?

鈴木 ひたすらドーナツを描いて、ああでもないこうでもないってしていたら、息子が1枚のチョコまみれの真っ黒になった絵を見て「もうドーナツかどうかわからなくなってるじゃん」って喜んだんです。あ、こういうのが面白いんだと。そこから、チョコレートをどんどんたらす、というところに辿り着きました。

鈴木のりたけさん

――お子さんの反応からアイデアが閃くことは多いのですか?

鈴木 やっぱりありますね。子どもと公園で遊んでいた時に「プラタナス」って言葉を噛んじゃったんです。当時3歳くらいだった娘は、「プラトナス〜」「プララタナッス〜」って一日中笑っていまして、そこから『す~べりだい』『ぶららんこ』『すなばばば』という「ゆうぐ」シリーズを作りました。子どもの言葉をスタート地点にして、遊具の名前を1文字だけ変えてみたらどうだろうとか、「すべりだい」を逆から読むと「いだりべす」になってイギリスの女王っぽいなとか、アイデアを膨らませていきました。

――お子さんにヒントをもらいながら作っていった?

鈴木 いや、最初だけかもしれないですね。あんまり子どもの顔色ばっかりうかがって作っちゃうのもよくないし、自分が楽しまないと筆も乗っていきませんから(笑)。子どもが面白がることを大人の頭で分析して、伝わりやすいようにまとめていくのが大変なんです。ばーって描いて、しばらく寝かせて冷静になってもう1回考え、少しずつ修正していきます。

――アーティスティックな反面、ロジカルな思考も必要とされるんですね。

鈴木 ですね。「あれ? これ何が面白いんだっけ?」みたいなことはしょっちゅうです(笑)。

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