『死に方がわからない』著者の次のテーマは「老い方」。健やかな老後を迎えるために、多様な切り口から「老い」と向き合うハウツー本
PR 公開日:2024/11/21
配偶者や子どもがいない単身者がキレイに人生を閉じる方法を綴った、文筆家・門賀美央子氏によるエッセイ集『死に方がわからない』。読者からの喜びの声や「いつ死んでも安心」という手応えを得て、生きることに集中する心の余裕を得たという著者が選んだ次のテーマは、「老い方」だ。
『老い方がわからない』(門賀美央子/双葉社)は、50代を迎えた著者が、ひとり暮らしの「ボッチ」が、人生100年時代において健やかに老後を生きる方法を追求したエッセイ。「会社員、既婚、子どもあり」を前提とした日本の社会保障や、単身高齢者への支援が行き届かない現状などの問題を提示しつつ、それらの解決への道筋や、筆者の導いた答えを伝えている。
本書の魅力は、健やかな老後を迎えるための準備や、金銭や住居など生活面の対策、また「老い」とはそもそも何なのか?といった多様な切り口で、「老い方」に向き合っていること。アガサ・クリスティの名作に登場する老女探偵、ミス・ジェーン・マープルの輝かしい生き様や、文豪・永井荷風の晩年のセルフ・ネグレクトから学ぶという文系的なアプローチから、再生医療に詳しい幹細胞生物学者への取材まで、深掘りの方法も多岐にわたる。「それって社会的に成功した人だけにあてはまるんじゃない?」というような、みんながなかなか言わない本音や、ちょっと卑屈な自分自身へのツッコミも笑えて、楽しく読みながら、豊かな老後を迎えるためのヒントを得られる。
中でも、NPO法人の「身寄りなし問題研究会」代表理事の須貝秀昭氏へのインタビューは興味深い。須貝氏は、介護や福祉の現場で働く中で、身寄りがない人へのサポートの必要性を感じ、彼らが排除されない社会の実現を目指すNPO法人を設立した。その言葉からは、親族がいない人の医療同意や死後対応などのシビアな問題や、老後の住宅などの不安解消のためにやるべきことなど、高齢者になる前に知っておきたい有益な情報を得られる。
取材や調査を経て著者は、健やかに美しく老いていくためには「受け入れ力」と「抗い続ける力」、2つの力が必要という結論に至る。多様な角度から老いの問題に迫る本書を読むと、その提言がすっと腑に落ちる。年金の受給開始年齢が上がり、高齢者も働くことを強いられ、国を支える若い人口も減り……と、これから高齢者になる世代にとっては心が沈む話題ばかりだが、本書を読むと、そんな時代に明るく生きる老人になるという、高いハードルに前向きに挑んでみたくなる。
著者の「五十代に入ってほどない今は老いの第一歩を踏み出したばかり」「老いのバブバブ期」「伸びしろしかない」という言葉にも励まされる。いろいろと経験を積み心も落ち着いてきた年代に、その後の人生について考えられるのは幸福なことかもしれないと思う。そして、老後に不安を抱えるのは、「会社員、既婚、子どもあり」というフォーマットから外れた人ばかりではないだろう。いつか必ず老いるすべての人が、明るく老後に向き合うために読むべき1冊だ。
文=川辺美希