紫式部『源氏物語 三十二帖 梅枝』あらすじ紹介。源氏の秘蔵っ子・明石の姫君が大人の一歩を踏み出した! 娘のために頑張る源氏パパ

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公開日:2024/12/7

 王朝文学の傑作『源氏物語』を読んだことはありますか。古文で書かれた古典作品であるため難しく感じる方も多いかもしれません。どんな物語なのかを知ることができるよう、1章ずつ簡潔にあらすじをまとめました。今回は、第32章「梅枝(うめがえ)」をご紹介します。

<続きは本書でお楽しみください>
源氏物語 三十二帖 梅枝

『源氏物語 梅枝』の作品解説

『源氏物語』とは1000年以上前に紫式部によって書かれた長編小説です。作品の魅力は、なんといっても光源氏の数々のロマンス。年の近い継母や人妻、恋焦がれる人に似た少女など、様々な女性を相手に時に切なく、時に色っぽく物語が展開されます。ですが、そこにあるのは単なる男女の恋の情事にとどまらず、登場人物の複雑な心の葛藤や因果応報の戒め、人生の儚さです。それらが美しい文章で紡がれていることが、『源氏物語』が時代を超えて今なお世界中で読まれる所以なのでしょう。

「梅枝」で源氏は明石の姫君の裳着と入内の準備に精を出します。今でいう成人のお祝いと嫁入り支度なので、薫物の調合や手本となるような書物の執筆を源氏に縁のある素敵なご婦人方や貴公子たちに依頼する念の入れようです。しかし、源氏は娘可愛さに尽力しているだけではありません。明石の姫君は春宮(次の帝)に入内が決まっていて、姫君が春宮の寵愛を受けることができるかどうかが一族の政治生命をも動かしかねず、源氏は必死になっているのです。一方、息子・夕霧には訓戒を垂れて結婚をそれとなく促します。「遊びすぎて身を滅ぼさないように」「その人の良いところを見て添い遂げなさい」というのは経験豊富な源氏だからこそ言えるアドバイスなのかもしれません。親心と見栄と政治的戦略が源氏を動かしているようです。

これまでのあらすじ

 多くの求婚者を出し抜いて、髭黒大将が強引に玉鬘を手に入れた。突然のことに周囲は驚き、玉鬘は髭黒に対し不快感を露わにしたが、当の本人は念願の玉鬘を妻にして浮かれていた。子供を連れて実家に帰った妻を迎えに行く髭黒だったが、可愛がっていた娘の真木柱を取り戻すことはできず、息子ふたりを連れて帰った。髭黒は玉鬘を自邸に囲い込み、しばらくして玉鬘と髭黒の間に男の子が生まれた。

『源氏物語 梅枝』の主な登場人物

光源氏:39歳。紫の上とともに明石の姫君を育てる。

明石の姫君:11歳。明石の君と源氏の子。

明石の君:30歳。出自が低いため娘の行く末を思って明石の姫君を手放した。

夕霧:18歳。故葵の上と源氏の実子。初恋の雲居雁を思い続ける。

雲居雁:20歳。内大臣の娘。

『源氏物語 梅枝』のあらすじ​​

 源氏は明石の姫君の裳着の準備に取り掛かっていた。同じ年の2月に春宮も元服し、その後、明石の姫君が入内することになっている。1月末で公私ともにのんびりとしている頃、源氏は薫物の調合をしていた。縁のあるご夫人方にも香の原料を配って、調合をお願いした。熱心に調合をする源氏に負けまいと、紫の上も競うように一生懸命になっていた。

 2月10日、雨が降って紅梅が色も香りも盛りの中、源氏の弟の兵部卿宮が六条院を訪れた。仲の良い源氏と兵部卿宮があれこれと話をしていると、ちょうど朝顔の姫君から梅の枝に結びつけられた手紙と、依頼していた薫物が届いた。この機会に、届けられた薫物も試してみて、兵部卿宮にその判定をさせた。朝顔の姫君の薫物は奥ゆかしく、源氏のものは華やかで、紫の上は今風に洗練されていて、花散里はしっとりと、明石の君は優美で…と、どの薫物も優れていて兵部卿宮には優劣がつけられない。その夜、源氏と兵部卿宮は内大臣の子息たちを交えて月の宴を催した。弁少将が歌う「梅が枝」は見事だった。

 こうして、腰結役の中宮、紫の上など多くの人が集う中、明石の姫君の裳着は盛大に行われたが、母親である明石の君は外聞を憚って同席することができなかった。

 2月20日過ぎ、春宮が元服した。他の姫君たちの親は源氏に遠慮して入内を見合わせている。源氏は、宮仕えとは多くの優れた姫君が集う中で優劣の差を競うべきであると考え、明石の姫君の入内を延期した。左大臣の娘が早速入内し、麗景殿女御(れいけいでんのにょうご)となった。明石の姫君の入内は4月と決め、その間に着々と入内の準備を整えていった。調度品を吟味し、物語や歌集の良書を集めていき、それらを収める箱にもこだわった。源氏は、紫の上を前に、様々な女性の文字の書きぶりを思い出とともに語り、紫の上の仮名の書きぶりは朧月夜や朝顔の姫君と並んで上手いと褒めた。風流な人々に手本となるような書き物の執筆を依頼し、源氏自身も筆をとった。

 その頃、内大臣は雲居雁の結婚について悩んでいた。女盛りでありながら塞ぎ込んだ様子の雲居雁を気にかけ、内大臣も弱気になっているようだが、夕霧はやはり平然としていた。源氏も息子が身を固めないことを心配し、誰でもいいと結婚するのはよくないが、いつまでも結婚せずにいて女遊びに走るのもまたよくない、不本意ながら結婚したとしてもその人の人柄の良いところを見て添い遂げなさいと、結婚について教訓を垂れた。夕霧に縁談話があるとの噂に雲居雁は動揺するが、夕霧は変わらず雲居雁との結婚を思い定めていた。

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