紫式部『源氏物語 三十三帖 藤裏葉』あらすじ紹介。夕霧と雲居雁がついにゴールイン! 息子の結婚、娘の入内、自身の昇進と幸せの絶頂にある源氏
公開日:2024/12/8
王朝文学の傑作『源氏物語』を読んだことはありますか。古文で書かれた古典作品であるため難しく感じる方も多いかもしれません。どんな物語なのかを知ることができるよう、1章ずつ簡潔にあらすじをまとめました。今回は、第33章「藤裏葉(ふじのうらば)」をご紹介します。
『源氏物語 藤裏葉』の作品解説
『源氏物語』とは1000年以上前に紫式部によって書かれた長編小説です。作品の魅力は、なんといっても光源氏の数々のロマンス。年の近い継母や人妻、恋焦がれる人に似た少女など、様々な女性を相手に時に切なく、時に色っぽく物語が展開されます。ですが、そこにあるのは単なる男女の恋の情事にとどまらず、登場人物の複雑な心の葛藤や因果応報の戒め、人生の儚さです。それらが美しい文章で紡がれていることが、『源氏物語』が時代を超えて今なお世界中で読まれる所以なのでしょう。
「藤裏葉」の章名は、内大臣が夕霧に歌った古歌「春日さす藤の裏葉のうらとけて君し思はば我も頼まむ」に因んでいます。「春の日がさす藤の裏葉のうら(心)ではないが、あなたが心を開いてくれるのなら私もあなたを信頼しましょう」という歌意で、内大臣は夕霧と雲居雁の結婚を認め、ふたりは長年の恋を実らせます。これに加え、長年いがみ合っていた紫の上と明石の君が対面して心を通わせたり、3歳で養女に出した明石の姫君と実母・明石の君が8年ぶりに再会したりと、明るい話題に満ちています。また、明石の姫君の入内や源氏と夕霧のさらなる昇進と、公私ともに幸せの絶頂にいる源氏が描かれています。
これまでのあらすじ
源氏の娘・明石の姫君の裳着が終わり、入内に向けて準備が着々と整っていく。相変わらず、雲居雁と結婚するという夕霧の決意は揺るがず、源氏はなかなか身を固めない夕霧を諭した。雲居雁の父である内大臣もまた、年頃になった娘の将来を心配し、内心焦り始めていた。
『源氏物語 藤裏葉』の主な登場人物
光源氏:39歳。紫の上とともに明石の姫君を育てる。
明石の姫君:11歳。明石の君と源氏の子。
明石の君:30歳。出自が低いため娘の行く末を思って明石の姫君を手放した。
夕霧:18歳。故葵の上と源氏の実子。初恋の雲居雁を思い続ける。
雲居雁:20歳。内大臣の娘。
春宮:13歳。故朱雀院の子。
『源氏物語 藤裏葉』のあらすじ
夕霧と雲居雁はすれ違ってはいたが、お互いに一途に思い合っていた。内大臣は、夕霧と雲居雁の仲を引き裂いた張本人であるが、もしも夕霧に縁談相手が現れれば、雲居雁に新しい婿候補を見つける必要があり世間の笑いものになりかねないと考え、自分が折れるべきだろうかと思い始めていた。とはいえ、長年わだかまりを抱えている相手にどう切り出すのがいいのかと考えている折、3月の大宮(内大臣の母、夕霧の祖母)の命日にその機が巡ってきた。内大臣は法事に列席した夕霧を呼び止め、「残り少ない命です。私の罪をお許しください」と声を掛けた。雨風の降る中だったため、その場はそれだけになってしまったが、内大臣の正面切っての謝罪が気に掛かり、夕霧はあれこれ思いを巡らしていた。
4月、内大臣は庭先の藤の花を愛でながら管弦の宴を催し、夕霧を招待した。長年待ち焦がれていた内大臣からの連絡に心が躍ったが、同時に真意を測りかねて内心穏やかではない。内大臣は立派に成長した夕霧を丁重にもてなし、酒をしきりに勧めた。そして、歌を交わしながら雲居雁を夕霧に託すと伝えた。夕霧は酔ったふりをして宿を求め、柏木に導かれて雲居雁の部屋に入り、遂にふたりは結ばれた。内大臣も源氏も、ふたりの結婚を心から喜んだ。
明石の姫君の入内は4月下旬に決まった。紫の上は姫君に常に付き添うことができないので、これを機に後見役を実母の明石の君にしてはどうかと考えていた。この心遣いを明石の君はとても喜んだ。姫君と共に宮中に入った紫の上は、交代して姫君に付き添う明石の君と初めて対面する。互いの魅力をそれぞれ認め合い、ふたりは打ち解けて話をした。
姫君はお人形のような可愛らしさに、奥ゆかしさも加わり、春宮の寵愛も格別だった。明石の君も母として申し分なく姫君の世話をして、仕える女房たちも教育する念の入れようであった。養母の紫の上と実母の明石の君は良好な関係を築いていた。
その秋、源氏は上皇(譲位した天皇)に準ずる位についた。内大臣は太政大臣に、夕霧も中納言に昇進した。夕霧夫妻は故大宮の三条の邸に移り住み、内大臣も時折訪ねては夕霧を婿として可愛がっていた。
11月の紅葉の盛りに、六条院に冷泉帝と朱雀院の行幸(帝のお出かけ)があった。主人の源氏は、華やかにもてなした。