平野レミ「最愛の人の不在は、息子にも嫁にも穴埋めできない」。悲しくても「好きなこと」をして、“私のまんま”で生きてきた人生哲学《インタビュー》
更新日:2024/11/28
最愛の人を失った寂しさは穴埋めできない
——夫の和田誠さんが亡くなられてから、もう5年でしょうか。
レミ:10月7日が命日だから、6年目に入っちゃった。早いね。
——本書を読んでいても、こんなに相性のいいご夫婦がいらっしゃるのかと驚きました。
レミ:和田さんは静かな人だけど、私は声が大きくてベラベラ喋る。だけど合っちゃうのよね。初めてご飯を食べに行ったとき、和田さんはどっしりしてて、地面に足がついてる感じがして今までの男の人とは違ったんです。私が喋ったことを受け止めてくれてね。一緒にいてすごく楽しかった。いい人だったんですよ、和田さんって!
——夫婦って、長年連れ添うと顔や性格が似てくるっていいますよね。そういう一面はあったんでしょうか。
レミ:(マネージャーさんに)どう? 私と和田さん、似てる?
マネージャー:お互いに尊敬しあってますよね。ふつうはちょっとしたことで夫婦ゲンカになるけど、レミさんは和田さんから何か言われたとしても絶対に料理の手抜きをしないし、和田さんも文句を言わない。そういうところがピタッと合ったんだと思います。
レミ:和田さんがいるだけで安心するの。夜まで家で仕事をしていても、和田さんがガチャガチャって鍵をあけて玄関から入ってくると嬉しくてしょうがない。
マネージャー:和田さんも、そういうレミさんのことを楽しんでました。フフッと笑って(笑)。
レミ:ほんとに好きでしょうがないときがあるのよね。「和田さんのことが好き。どうしよう。なんでこんなに好きなんだろう、好き好き、好きだよ!」って言うと、「よかったね」って言ってくれるんです。でもね、死んじゃうのよ。死んじゃったんですよ。
——心にぽっかり穴があくというか、生活そのものは変わりましたか。
レミ:もちろん。だって、ずっと一緒だった和田さんがいなくなっちゃったんだから。私はひとりぼっちになっちゃって、息子がいても、嫁がいても、誰にも穴埋めはできない。この寂しさ、悲しさ、心細さみたいなのは。ただ、ありがたいことにいっぱい仕事が来るんです。和田さんがいなくなっちゃった寂しさを紛らわそうと思って、与えられた仕事を無我夢中でやっているうちに、ここまで来ちゃったんです。もう丸5年よ。
——お仕事に没頭されていたんですね。
レミ:そうそう。だから、お料理が好きでよかったと思ったね。楽しいんだもん。料理がなかったら私、何してたんだろうな。みんなも自分の好きなものを見つけたほうがいいかもね。
——大事な人を亡くされて立ち直れない方にもレミさんの言葉が届いてほしい、と思います。
レミ:この世に何十万、何千万っていう夫婦がいて、その片割れがかならず先に死んで、ひとり生き残る。残された人はものすごく苦しくて、寂しくて、悲しい思いをするんですよね。それが私にもきちゃった。でも私が残ってよかったと思います。和田さんが残っちゃったらご飯も作れないし、寂しかったと思うから。
——和田さんのご著書のなかで大切な一冊を教えていただけませんか?
レミ:文章を担当した本だけでも、二百何十冊あるんですって。私が今読んでるのは『わたくし大画報』(ポプラ社)。家庭画報じゃなくて、『わたくし大画報』。和田さんはめったに自分のことを書かない人なんだけど、この本には和田さんのことも、家のこともいっぱい書いてあって、1ページ目から私の話が出てくるんですよ。カバーの(買い物袋などを持った男性の)シルエットが和田さんにそっくりでしょ? 近所のスーパーでよく買い物してくれてたんですよ。
——1982年に刊行されたものが、今年3月に復刊されたんですね。
レミ:まさか、和田さんが私のことを本に書いてるなんて思いませんでした。私のことをどう思ってるのか全然わからなかったけど、面白がって書いてますね。うれしかったなあ。この本は私の宝物です。
——レミさん、ご存じなかったとは。
レミ:だって何も言わないんだもの! 無口で無口でさ。私が和田さんのこと好きだっていうだけで、私のこと好きだなんて(和田さんが言うのは)聞いたことないし。みんな幸せ感は違うと思うけど、私は和田さんが喋らなくたって、黙ってそこにいてくれるだけでよかったの。
——和田さんが仕事や趣味の映画のことなどを、イラストを交えながら面白おかしく綴られています。本が残っていると、今でもそばにいてくれるようですね。
レミ:そう。私の話が載ってると、心の中に和田さんがよみがえってくるんです。うちには和田さんの書いた本がいっぱいあるから、ちょっとずつ読んでます。本のなかでまた和田さんに出会えるのは嬉しいですね。