儒烏風亭らでんの落語がたり!⑥『茶の湯』/大爆笑する女性の正体とは……?
更新日:2024/12/10
とある日の寄席、私の好きな噺がかかりました。
心の中で大きくガッツポーズをして、落語家さんの噺に耳を傾けていると、隣にいた女性が震えているご様子。どうしたのだろうかと思いちらっと目線をやると、それはそれは大爆笑しておりました。声が出ないくらいの爆笑です。好きな噺でこんなに笑ってくれるのはなんだか嬉しいものです。
ご挨拶が遅れましたが、今回も「儒烏風亭らでんの落語がたり!」にて筆を執らせていただきます。
hololive DEV_ISのReGLOSSというユニットに所属している儒烏風亭らでんです。
みなさん寄席に行ったことはありますか? 寄席とは、簡単に説明すると「落語を中心としたお笑い劇場」です。毎日たくさんの落語家さんたちが入れ代わり立ち代わりで、落語を披露してくれます。落語だけではありません。落語や講談、紙切りやなぞかけなどさまざまな芸に触れることができます。
冒頭の日記はそんな寄席での一幕です。さて、隣にいた女性が大爆笑するほどの噺、気になりますよね。今回はまさにそのときかかっていた噺「茶の湯」の紹介です。
あるとき、大商人(おおあきんど)の主人がこう言います。
「茶道、やってみようかな……」
こう発言する主人ですが、本人に茶道の心得や経験はありません。
「それでは、誰かに教えてもらったらどうでしょう?」
こうアドバイスをするのは小僧の定吉。しかし主人は頑なに自己流で茶道をしようとします。
まずはお茶を点てるところからはじまります。
用意したのはそう「青黄粉」です。
……青黄粉?
この主人、お茶の素材もよくわかっていないのです!
青黄粉を茶碗に入れ、必死にかき混ぜますが泡は立ちません。そりゃ青黄粉ですから。
そこでさらに用意したのは椋(むく)の皮です。椋の皮、と言われてピンと来る人は少ないのではないでしょうか。私もはじめはわかりませんでした。椋はムクロジという植物です¹。その植物の皮は泡の立つ成分が入っています。昔はその泡立ちを利用し器を洗うこともあったそうです。つまり、椋の皮は今でいうところの洗剤です。
椋の皮 in 青黄粉で泡を立たせることに成功しました!
おいしいわけがありません! 洗剤を食べているようなものですから。主人はそれを飲むとそのまずさに悶えます。そして「茶道とは、風流とはこういうものだったのか……」となぜか納得のご様子。ここで納得してしまった主人はもう止まりません。椋の皮 in 青黄粉を他の人にも振る舞おうと考えます。
さぁ被害者は増える一方! 主人の自己流茶道の行方はいかに!?
というあらすじが落語「茶の湯」です。
以前コラムで紹介した落語「転失気」は知ったかぶりのお話でしたが、「茶の湯」も大きくわけるとこの知ったかぶり系のお話に分類されます。続きはぜひ落語「茶の湯」を聞いてみてください。
さて、話は戻って「茶の湯」で大爆笑している女性。私は気になって「この噺、お好きですか?」と伺うとこう返ってきました。
「私、普段茶道の先生をやっているんです。情景が想像できて面白くって面白くって」
なんとお茶の先生だったのです!
「ええ!ということは、ティーチャー(茶)なんですね!」
……お茶が冷めてしまったようです。
1)椋は一般的に椋木ですが、ここではムクロジのことを指します。