独り身で“がん”罹患。不安の裏にある楽観「自分の身の振り方さえ決めてしまえば」

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PR 公開日:2024/11/23

末期がん「おひとりさま」でも大丈夫"
末期がん「おひとりさま」でも大丈夫』(長田昭二/文藝春秋)

 おひとりさまでの“がん闘病”は「最期の瞬間まで自分で決断していかなければならない」。医療ジャーナリストの長田昭二さんによる著者『末期がん「おひとりさま」でも大丈夫』(文藝春秋)の一節である。

 過去に記事を通して、何度も「日本人の二人に一人はがんにかかり、三人に一人はがんで命を落とす」と伝え続けてきた著者自身が一変、当事者になった心中とは。

 2014年春から2024年9月まで、10年以上に及ぶ“がんサバイバー”としての歩みを“僕”の一人称で振り返る著者の独白は、がん闘病のリアルを鮮明に映し出す。

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 著者が患ったのは「前立腺がん」で、病気の進行度などを示す病期分類はステージ4だ。

 いわゆる末期がんで、2024年9月時点では、がんが前立腺から胸椎や肩甲骨、腰椎などへと転移し、延命のために抗がん剤治療を受けているという。

 著者は2014年春に9年間連れ添った妻と離婚したことを振り返る。自身のがんを疑いはじめたのは、2016年8月。ランニング後のトイレで見た、脱水症による真っ赤な尿をきっかけに病院で血液検査を受け、前立腺の異常を示す数値が極めて高いと気がついた。

 ただ、がんと確定するのは3年以上が経過してからだった。前立腺の異常によって、病院で生殖器をさらけ出すことへの恥ずかしさもあり、検査を後回しにしていたという著者の心中は、十分に察せられる。

 その後、医療ジャーナリストとしての知見も生かして、頼れる医師や病院のもとで闘病がスタート。ただ、タイトルのとおり「おひとりさま」としての不安はなかったのか、疑問もわく。

 ひとつ印象的だったのは、2021年6月に著者が肺と背中側の胸椎にがんが転移したと告知された当時のエピソードだ。

 がんの転移は、すなわち「遠くない将来に死が近付いていること」をあらわすという。そこで著者は、親交の深い友人でもあり仕事仲間でもある出版社のスタッフ3人へ終活の計画などを明かした。

 当時を振り返る著者が「自分の身の振り方さえ決めてしまえば、あとはそれに沿って生活していけばいい」と楽観視していたのは意外。しかし、「離婚せずに妻と一緒に暮らしていたら、残される妻のことが心配で何も手が付かなくなったはず」とあり、自身の人生に一心に向き合える側面もあるのだと、腑に落ちた。

 いわばおひとりさまの末期がん患者として、著者は「家族がいて、周囲に甘えられる環境だと、自分ですることが減って時間が余るので、その時間を利用してメソメソするようになるだろう」ともいう。一生のうちで何らかのがんにかかる可能性は“2人に1人”で、なおかつ、単身者も増加傾向にある現代で人生をいかに生きるか。本書に心打たれる読者は、少なくないはずだ。

文=カネコシュウヘイ

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