元サッカー日本代表・中村憲剛の“才能論”がビジネス視点で読んでも面白い! コンバート(=配置転換)や移籍(=同業他社への転職)も才能開花のきっかけに

文芸・カルチャー

PR 公開日:2024/12/11

才能発見
才能発見 「考える力」は勝利への近道』(中村憲剛/文藝春秋)

 私たちが何気なく使う「あの人は○○の才能がある」という言葉は、よく考えると掴みどころのないものだ。

 たとえば大谷翔平の成功のどこまでが「才能」によるもので、どこまでが努力によるものなのかは、切り分けが非常に難しい。また、若かりし頃に「天才」と言われたスポーツ選手でも、大成することなく消えていく人も多い……。

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 そうした「才能」という言葉を、努力型&遅咲きのサッカー選手として知られ、“言葉でサッカーを読み解く力”にも定評のある中村憲剛さん(元日本代表)が解析した著書が『才能発見 「考える力」は勝利への近道』(中村憲剛/文藝春秋)だ。

 具体的な選手名も多く引き合いに出しながら、「才能」というものをひもといていく本で、サッカー好きな筆者が読んでも納得感が非常に深いものだった。

ギフテッドがいる一方、後天的に「センス」を身に着けた人も多い

 憲剛さんは本書の冒頭で、まず「ギフテッド」と呼べる選手が確実に存在することを明言する。

「教えられて学んだもの」とは絶対に言えないボールタッチを見せるリオネル・メッシ。惚れ惚れするほど“なめらか”なトラップに天賦の才が見え隠れする小野伸二。小学生の頃から、プレーの判断やポジショニングが他とは違った久保建英……。

 こうした人たちが「持って生まれた才能に溢れていること」は、サッカーファンなら誰もが同意するだろう。

 そして憲剛さんは「才能」に近い言葉として「センス」を持ち出す。憲剛さんいわく、シュートセンスでもパスセンスでもセンスという言葉のポイントは「見えているかどうか」にあるという。

・どこへパスを出したら局面を打開できるのか
・ゴールのどこへ打ったらシュートが入るのか

 といったことが瞬間的に見えてしまい、そのイメージを具現化できる技術がある選手が、“サッカーセンスのある選手”だと本書では定義している。

 ちなみに憲剛さん自身も、「このパスを出したら局面がこう変わる」という1秒後の未来が頭の中に浮かぶことがあったという。現役時代の中村憲剛のプレーを見た人なら、この話も非常に納得できるだろう。

 そのうえで重要なのは、そうした“センス”は後天的に磨くことができる……と憲剛さんが断言していることだ。

 たとえば天才的なフリーキックを数多く見せてきた中村俊輔は、日本代表の活動期間中もフリーキックの練習を日課としており、プロデビューを飾った横浜F・マリノスでも、川口能活を相手に全体練習後にフリーキックを蹴っていたという。

 また憲剛さん自身は、幼少期の憧れだったラモス瑠偉やグアルディオラのプレーを頭に焼き付け、実際に真似をして成功や失敗を繰り返したことでパスセンスを身に着けた実感があるそうだ(……という話を読んでから思い返すと、3人のプレーの雰囲気は似てるところがあって面白い!)。

コンバート(配置転換)や移籍(同業他社への転職)で才能が開花する場合も!

 と、いうように、本書は「才能は持って生まれたものなのか?」「才能とセンスはどう違うのか?」という素朴な疑問を、さまざまな実例を挙げながら一つずつ解きほぐしていく。

 本田圭佑、中村俊輔、鎌田大地といったスーパースターたちが「プロクラブのユースへの昇格を見送られ、若い頃に挫折を経験した選手だった」という「才能と挫折の関係」といった話も面白いし、「ピッチに立つ11人の中に左利きは少ないので、左利きはそれだけで“授けられた才能”」という見解も納得感が深かった。

 また、ポジション変更や移籍、新しい指導者との出会いをきっかけに“才能が開花する”謎についても、納得感の深い回答が本書では示されている。「コンバートが配置転換なら、移籍は同業他社への転職です」といったたとえも登場するので、ビジネスパーソンが読んでも腹落ちする話は多いだろう。

 そして「才能とは何か」を深く知ることは、「自分の才能」や「自分の子どもの才能」を開花させるには何をすべきか……を知ることと同義と言ってもいい。

 本書は、サッカーが上手くなりたい人、子どものサッカーの上達の手助けをしたい人はもちろんのこと、「大好きなサッカーをより深く知ることで、その知見を自分の仕事に活かしたい人」にも非常に面白い1冊になっている。

文=古澤誠一郎

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