こんなセリフがある本は? テスト問題で読んだ作品のタイトルは? Xに投稿された“あやふや”な記憶をヒントに、みんなでその本を探し出す!

文芸・カルチャー

公開日:2024/11/30

あやふや記憶の本棚 思い出せないあの本、探します"
あやふや記憶の本棚 思い出せないあの本、探します』(あやふや文庫/飛鳥新社)

 ネット検索の精度がいかに上がっても、どうしてもそれでは見つけ出せないものがある。ネットが普及していなかった頃のもののためにネット上で情報が少ないものや、ぼんやりした記憶や印象しか残っていないものだ。そんな「あやふや」な記憶や断片的な情報を出発点にした本探しのストーリーによって読書の魅力を再確認できるのが、本書『あやふや記憶の本棚 思い出せないあの本、探します』(あやふや文庫/飛鳥新社)だ。

 本書は、Xのフォロワー6.6万人を持つアカウント「あやふや文庫」(@ayafuyabunko)の活動をまとめたもの。「あやふや文庫」は、2019年のアカウント開設以来、「思い出せそうで思い出せないあやふやな本の記憶」を募り、本好きのフォロワーたちのリプライをもとに小説や漫画、絵本などを探し出す活動を行っている。5年間で寄せられた本にまつわる記憶は9000以上。クイズのような謎解きだけでなく、他の人の記憶から自分の読書体験を懐かしく思い出すなどの楽しみ方もでき、読書家の本を愛する心をくすぐるアカウントとして人気を集めている。

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 本書では、タイトル探しのアプローチ別にエピソードを紹介。複数人の異なるあやふや記憶から書籍を探す「みんなが探してる!」や、依頼人の勘違いや記憶違いが面白い「変な記憶を探してる!」、印象的な台詞やフレーズから謎に迫る「忘れられないフレーズを探してる!」、子どもの頃に教科書やテスト問題で読んだ物語を探す「試験・教科書の本を探してる!」などの7つのテーマで構成されている。

 たとえば、「主人公が異世界に来てしまい、不思議な植物を見つけます」「眠っている人々は人間の形をしていたり、身体があいまいになりどんぐりのような姿になったりしていました」「人間大で中に浮いた卵のようなフォルムで人語を理解する生物たちがいます」などの、複数人の記憶を手がかりに見つかったのは、斉藤洋氏の小説『たったひとりの伝説』。祖父が戦争中に手帳に記した空間に迷い込む異世界もので、読者によって印象的なシーンや作品から受け取るものがバラバラなことが、この物語のファンタスティックで奥深い魅力を物語っている。

 また、「ある女性が女の子を誘拐して逃げる話」「昆虫の名前が入っている短い題名だった」というあやふや記憶の正解は、角田光代氏の『八日目の蝉』。映画化もされたベストセラーなので、このヒントにピンときた人もいるかもしれない。ただ、「昆虫」などのキーワードで検索すると昆虫関係の本にヒットしてしまうため、ネットで普通に検索して探すのは難しいのではないかと著者は指摘。Xならではの集合知の力を実感する事例だ。

 子どもの頃やティーンの時に読んだ物語を探すケースも多く紹介されている。たとえば、「男の子が夏休み?に田舎でいろんな神様?に会うお話」を見つけたいという依頼。この本に出合ったきっかけは、「当時好きだった男の子が読んでいたから」とのこと。正解は『ふるさとは、夏』。初めて訪れた父のふるさとで主人公が女の子に出会い、一本の白羽の矢の謎を追う中でふたりが様々な神様に出会っていく――というお話。切ない物語と「好きな人が読んでいた」というエピソードがリンクする、本との素敵な再会エピソードだ。

 依頼人のあやふやな記憶は時に、自分の好みや当時の感情の影響を受けて脚色されていて、それもまた面白い。本の感想やレビューは世の中に溢れていて、そちらのほうが内容には忠実かもしれない。しかし、記憶がちょっと間違っていても、人間の感情や思い出が詰まったこの「あやふや記憶」は、その本への興味や読書のワクワク感を引き出す。本書の中に誰もが、「読んでみたい!」と思える本や、自分の子どもに読ませたい本を見つけることができるだろう。

文=川辺美希

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