マスコミは本当に腐っているのか? 腐敗した業界をぶち壊し、再生させようとする記者を描く『マスゴミ未満』スペシャル鼎談

マンガ

更新日:2024/11/28

マスゴミ未満/
マスゴミ未満』(みずほ大:原作、松浦ショウゴ:作画/白泉社)

「マスゴミ」という言葉がある。これはマスコミを揶揄し、批判するときに使われるネットスラングだ。SNSで検索してみれば、驚くほどふつうに使われている。それぐらい、現代はマスコミへの不信感が高まっているのかもしれない。

 たしかに、日々のニュースを目にしていて、その報道姿勢に疑問を抱いてしまうことはある。もっと報じるべき大切なニュースがあるのではないか。どうして事件の被害者を追い詰めるような質問ばかりするのだろうか――。

 しかしながら、そうやって批判されるマスコミの世界で、信念を持ち、正しくあろうとする人たちが存在するのも事実だ。

マスゴミ未満』(みずほ大:原作、松浦ショウゴ:作画/白泉社)はまさに、マスコミ業界で闘う男を描くマンガである。主人公は報道記者の加山雄一。「意義のないスクープ」には興味を持たず、社会のなかで追い詰められている人々の声に耳を傾けようとする人物だ。しかし、雄一の思いは報われない。勤めるテレビ局で求められるのは、視聴率が稼げるネタのみ。誰も注目していないストーカー事件よりも、動物園のニュースが優先される。そんな世界に嫌気がさした雄一は、ある日、とんでもない行動に出る。それを機に、雄一はフリーのジャーナリストとして、“腐った”報道機関を壊し、再生させることを決意するのだが――。

マスゴミ未満

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 まるでマスコミ業界に殴り込みをかけるような本作を生み出したのは、『K.O.K-キング・オブ・クズ-』『ふろーれす』などで知られるマンガ原作者のみずほ大さん。作画を務めるのは、本作で連載デビューを果たした松浦ショウゴさんだ。そして、みずほ大さんの担当編集者の川田侑彦さんは、なんと前職で報道記者をしていたという人物。

 異色のトリオによって描かれる『マスゴミ未満』の面白さの秘密はどこにあるのか。単行本第1巻の発売を記念して、3人にあらためて本作の魅力を振り返ってもらった。

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担当編集者の実体験をもとに、本作は生まれた

マスゴミ未満

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――本作はどのようにして生まれたんですか?

みずほ大さん(以下、みずほ):白泉社で仕事をさせていただくことになって、川田さんとまずは雑談がてらいろいろ話をしていたときに、川田さんからポロッと「ぼく、実は前職で報道記者をやっていたんです」という話題が出たんです。瞬間、報道記者って面白そうだな、と思って。

川田侑彦さん(以下、川田):その頃、ちょうど白泉社に入社して3カ月目くらいで、作家さんに会うのも初めてでしたし、みずほさんを楽しませなくちゃって焦っていたんですよ。それで前職の話をしたら少しは食いついてくれるかな、と思ったんですが。

みずほ:その話の前に「異世界モノどうですか」とか、「復讐ものやってみませんか」とか提案されたんですが、なんだかピンとこなくて。流行っているし人気のあるジャンルなのはわかっているものの、それをぼくがやる必要はないんじゃないかなって思ってしまったんですよね。そんななかで報道記者の話をされて、「これは美味しいネタがきたぞ!」と(笑)。

――担当編集者の前職が物語の種になるという非常に珍しいケースだと思いますが、ネームづくりでは川田さんの経験したことも活かされているんでしょうか?

みずほ:そうですね。まずはとにかく川田さんにめちゃくちゃ取材をしました。報道記者に対して漠然としたイメージしかなかったんですけど、話を聞いているうちに意外な一面が見えてくることもあって面白いことばかりでしたね。

川田:たとえば報道記者には「取材源の秘匿」というものが課せられていて「情報提供者が誰か」ということを絶対に知られないようにしなければならないんです。

 そのためにも大事な取材の際には、取材していることを第三者に知られないよう「夜回り・朝駆け」といって情報提供者の家を夜中や早朝に訪れたりもします。警察の張り込みのように、長時間、外で待つことも多い仕事なのでなかなか体力勝負なんですよ。そういったリアルな話をいろいろお伝えしたところ、みずほさんには面白がっていただけたみたいです。

――実際に第3話では雄一と、幼馴染で元同僚のゆかりが取材対象者の家に上がり込む様子が描かれていますね。まさか、それも報道記者のリアルだったとは驚きです。

マスゴミ未満

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みずほ:びっくりしますよね。川田さんの話を聞いているときは、ぼく自身が最初の読者になったような気分になるんです。それで面白かったことや驚いたことなんかをネームに取り入れているので、読者にも驚いてもらえればな、と。ただ、いまの形に落ち着くまでに、ネームでいうと500枚くらいはボツになってるんですよ。

川田:連載がスタートするまで、かなり試行錯誤しましたよね。

みずほ:そうそう。最初は型破りなキャラクターを主人公にして、報道記者とはどういうものかを見せていくお仕事モノみたいな感じで考えていたんですけど、うまくハマらなかった。その次にエンタメ色を強くした、ミステリー仕立てを考えてみました。国家権力の闇の部分を知ってしまった記者が、逃げ続けるという逃亡劇です。

川田:でもそれだと、報道記者である理由が弱くて、やはりボツになってしまって。

みずほ:それで行き詰まってしまって、もう一度話し合うことになったんです。そこで出てきたのが、「主人公に、記者を辞めさせるしかないんじゃないか」という案でした。腐ったメディアのなかにいてはやりたいことがやれないと考えた主人公が、記者を辞める。そうして初めて、本当にメディアに必要なものはなにか見つめられると思ったんですよね。だから第1話で雄一をクビにさせることにしました。そこからはどんどん話が膨らんでいきました。

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