マスコミ業界のリアルを入れつつ、エンタメとして面白いものを

――タイトルにある「マスゴミ」という単語、SNSでもマスコミを揶揄するために使っている人をよく見かけますが、なかなか強烈な単語です。

みずほ：正直、いろんなメディアを見ていて「ん？」って思う瞬間はあるんです。その違和感みたいなものは自分のなかに自然と溜まっていってしまう。特に最近感じるのは、メディアと視聴者との温度感がかなり乖離しているということ。そういうものを敏感に感じ取っている人たちが「マスゴミ」という言葉を使いはじめて、それを見た人が「自分もそう感じてた！」と同調することで、この言葉がどんどん広がっていったのかな、と。

松浦：みんながマスコミに求めていることって、政治の不正を暴くような、知られざることを明るみに出すという役割だと思います。だけど、最近はエンタメ性が強くなっていて、みんなが知りたいこと、求めていることではなく、知らなくてもいいことばかりを報道するようにもなっているように感じていて。そんなメディアが「マスゴミ」と呼ばれているのかもしれません。

川田：みずほさん、松浦さんのご意見はたしかに、と思いつつも、やはり報道記者時代は「マスゴミ」と呼ばれるたびに傷ついていましたね。世間で言われているマスコミの噂がただの深読みでしかないことも多々あったんです。でも、立場上、説明できないこともあって。マスコミには悪いところもありますが、もちろん果たしている大事な役割もある。ぼくはそれを知っているので、この作品を通してマスコミの功罪いずれについても関心を持ってもらえたらと思っています。

――第1話はまさに、マスコミの悪い面を浮き彫りにするエピソードですよね。でも、雄一は正義の人で、“腐った”マスコミの世界を変えようと奮起する。その姿に胸が熱くなります。ただ、いきなり「腐敗しきった市政と市長」という巨悪と対峙することになって驚きました。

みずほ：もうとにかく、最初からフルスロットルでいこうと思っているんです。やはり主人公が悪を成敗する姿に、読者は共感や応援をしてくれるじゃないですか。なので、第1巻に収録されるエピソードから、大きな敵vs.雄一という構図は意識していましたね。敵となる存在はとにかく憎らしく見えるように、川田さんとたくさん話し合いました。

――社会に蔓延っている不正を明らかにするという意味では本作は社会派マンガといえます。一方で、悪を退治するというエンタメの基本も押さえている。そのバランスは強く意識されていますか？

みずほ：川田さんから聞いたマスコミ業界のリアルな部分を入れつつ、だけどエンタメとして盛り上がるように、もちろん演出している部分もあります。すべてがリアルではないけど、でも、もしかしたらあり得るかも……と感じていただけたら嬉しい。とはいえ、全編シリアスにするつもりはないんです。理想は藤沢とおるさんの『GTO』。あの作品はシリアスとコメディのバランスが巧みで、緩急がついているんですよ。そこに影響を受けているので、自然とバランスよく描けていると思います。

松浦：作画としても、背景をしっかり描き込んで社会派マンガとしてのリアリティを出せるように意識しています。一方で、エンタメとしても楽しんでもらえるよう、あまり硬くなりすぎないようにしたいですね。

川田：そもそも第1話で雄一が生放送中にとんでもないことをしでかすじゃないですか。あれはリアルでは絶対にありえないことです。あのシーンで、本作は社会派とエンタメの壁を取っ払っていると提示できているんじゃないかなと思います。

松浦：あの第1話は作画にも注目してもらいたいですね。テレビ局なんて入ったこともないですし、よくわからないカメラもたくさん出てくるんですけど、資料をたくさん読み込んで、すべて自分の手で描きました。説得力のある絵にすることで、本作の世界にすんなりと入り込んでもらいたかったんです。

――仰るとおり、とてもリアルなのですぐ入り込めましたし、一方で雄一の行動に度肝を抜かれました。では、今後の読みどころを教えてください。

みずほ：第1巻では最初の敵が出てきて、一体どうなるのかわからないところで終わりますが、ここからどんどん面白くなっていきます。第2巻では読者の皆さんにカタルシスを感じていただける展開を迎えます。ぼくの頭のなかにはもうラストまでの道筋が浮かんでいます。川田さんの話を聞きながら相当練り込んでいますので、お付き合いいただけると嬉しいです。

松浦：7、8話くらいから作画にもさらにパワーがこもっています。デジタルで作画しているんですが、ペンを自作して、迫力が出せるようになったんです。みずほさんの熱いネームに対して、熱いパワーを注いでいるので、絵にも注目してもらいたいです。

みずほ：そうして、主人公の雄一と一緒に怒ったり熱くなったりして、とにかく楽しんでもらいたいですね。

取材・文＝イガラシダイ