第21回「深夜2時にコンビニ飯を爆食してネムルバカ」/酒飲み独身女劇場 ハッピーエンドはまだ来ない㉑
公開日:2024/12/2
街がぐっすり眠りについた頃、わたしは起きる。
静かすぎる夜に響くのは、コンビニの袋のかすれる音と気の抜けた鼻歌。
深夜のコンビニ帰りはいつだってご機嫌だ。
歌っていても誰にも気付かれない。
大学時代から決まって帰り道は、きのこ帝国が聴きたくなる。わたしだけの時間が、そこにあるみたいな気持ちにさせてくれるから。
350mlの缶ビールと夜の散歩。
夜はいつも感傷的になりがちなので、今日は“帰り道の金木犀”というビールを選んでみた。
どこまでも続いていそうな夜だけど、時計の針は止まらない。
ホットスナックたちが冷めないか心配で、いつの間にか小走りになっている。
家に着いたら、まずはアメリカンドッグを出来立てのうちに。ケチャップとマスタードが溢れそうなくらいかけてかぶりつく。
しょっぱいと思いきや、生地はパンケーキみたいに甘くて、二世帯住宅になっている。串に残るおしりのカリカリの部分がたまらなく好きだ。
こんな夜中にコンビニ飯を食べるのは、許されないことだとわかっているからこそ、悪いことをしているみたいでワクワクする。
空っぽで真っ暗な胃袋に、おいしさが光る。
この時間は、明日の嫌なこととか締め切りとか全てを忘れさせてくれる。大学時代のモラトリアムのような懐かしさが、疲弊した心を若返らせてくれるんだ。
とはいえ、大学卒業してから変わったことといえば、友達が減って代わりに漫画や映画が親友になったくらい。
あとは、いつの間にか猫が4匹増えていた。
くちびるを、イルミネーションのように、きらり輝かせてくれるフライドチキン。
いつだってコンビニ飯はまっすぐな味がする。
わかりやすくて、おいしくて、愛嬌のある味。何も変わらず、ぽけーっとしている自分の味は、ぼやけているに違いない。
わたしを置いて昇給してしまった唐揚げ棒。よく就職活動の帰り道に食べていたっけなと思い出した。
あの頃は、何者かになろうと必死でもがいていたし、行き場のない熱と不安を抱えて生活していた。辛かったけど、未来に理想や夢をまだいっぱい詰め込んでいた。
今は、そんなこと全部忘れかけている。
「なんの目的もなくただ毎日生きてんのかよ!?」
あの頃の気持ちを思い出させてくれるのは、漫画『ネムルバカ』の先輩の言葉だった。
『ネムルバカ』
大学女子寮の同じ部屋で生活している、ひたすらバンド活動に打ち込む先輩と、ありきたりな大学生活を送っている後輩の日常と青春のお話。
やりたいことのある人、やりたいことがない人、何かしたいけど何ができるのかわからない人、全てに刺さるので、どんな時に読んでもグッとくるものがある。
こうあるべきという話ではなく、わからないことだらけの日常で自分はどうしたいのか考えさせてくれるんだ。
ぐるぐる廻り続けるだけで 一歩も前進しない駄目なサイクル、通称「ダサイクル」から抜け出す出口が、漫画を読むたびに見えてくる。
わたしも、後輩と同じように、よくある大学生活を送っていた。
何も夢もなければ、授業も単位を取れたらいいくらいの気持ちで受けていたし、イケてるバンドマンのMVに出てくるような恋愛もない、しょうもない飲み会で体調崩す怠惰な日々。
「努力しすぎると、空回りするだけでかっこわるい」と、心のどこかで思うことで逃げていたのかもしれない。
だからこそ、先輩に憧れてしまうんだろう。
音楽で食っていこうとするなんて難しいことだし、自分のレベルの限界だってわかってるでしょ。
それをわかっていて、努力するなんてしんどいじゃないか。そんな言葉を投げかけられても「このボケーッ」と殴り返すことができる先輩はかっこいい。
頑張ることがかっこわるいと思っていることがダサいんだと気づかせてくれる。
その中でも好きなシーンは、ナビに頼らず闇雲にドライブしてたどり着いた夜の海を見つめて、コンビニで買ったであろう菓子パンをもグモグ食べるところ。
終電がなくなっていなかったら、最終電車で、海にそのまま行ってしまったかもしれない。
運転免許もなければ、酒も飲んでいるし、ドライブする友達もいないので、いつでも家で海を見ることができるように、部屋一面を海にすることができるライトを買ってみた。
深海にいるような気持ちで、大好きな菓子パンの北海道チーズ蒸しケーキをちぎって食べる。
ゆらゆら光を追っていると、ほろ酔いが波寄せる。
このまま夢の中に沈んでいきたいところだけど、歯磨きは忘れずにシャカシャカ。
ちなみに、後日とりあえず何かしようと思って、プロフィール写真っぽいものを初めて撮ってみた。
人生ゲーム1マス進んで、慣れないことをしてドッと疲れてしまい、帰りにコンビニで好きなだけご飯を買って、午後まで盛大に寝てしまって2マス戻る。
今日から、眠るバカと呼んでください。
<第22回に続く>