紫式部『源氏物語 三十四帖 若菜上』あらすじ紹介。四十路の源氏に13歳の幼な妻が輿入れ!? 正妻の座を奪われた紫の上の心中は…
公開日:2024/12/9
世界的に有名な古典文学『源氏物語』を読んだことはありますか。古文で書かれた長編小説であるため難しく感じる方も多いかもしれません。どんな物語なのかを知ることができるよう、1章ずつ簡潔にあらすじをまとめました。今回は、第34章「若菜上(わかなのじょう)」をご紹介します。
『源氏物語 若菜上』の作品解説
『源氏物語』とは1000年以上前に紫式部によって書かれた長編小説です。作品の魅力は、なんといっても光源氏の数々のロマンス。年の近い継母や人妻、恋焦がれる人に似た少女など、様々な女性を相手に時に切なく、時に色っぽく物語が展開されます。ですが、そこにあるのは単なる男女の恋の情事にとどまらず、登場人物の複雑な心の葛藤や因果応報の戒め、人生の儚さです。それらが美しい文章で紡がれていることが、『源氏物語』が時代を超えて今なお世界中で読まれる所以なのでしょう。
源氏物語の中でも分量の多い「若菜」は、上・下巻に分かれます。長寿の祝いとして贈られた若菜を受け取った源氏が詠んだ歌にちなみ「若菜」と名付けられていますが、六条院のお祝いムードは朱雀院の娘・女三の宮の降嫁(皇女が臣下のもとに嫁ぐこと)によって崩れ、暗雲が立ち込めます。源氏の正妻の座が紫の上から女三の宮に移ることになったのです。しかも、女三の宮は期待外れの幼さで、源氏はこんなことならやめればよかったと後悔します。今まで事あるごとにやきもちを妬いていた紫の上ですが、今回は感情を表に出さず淡々と事態を受け入れます。紫の上との心の距離を感じる源氏の不安感が描かれ、物語に不穏な気配を感じます。
これまでのあらすじ
長年のわだかまりが解け、内大臣の許しを得た夕霧と雲居雁は晴れて結婚した。内大臣と源氏はこの結婚を喜び、ふたりは幸せな結婚生活を始めた。一方、明石の姫君は春宮に入内し、姫君の実母である明石の君が後見役となった。その年の秋、源氏は准太政天皇(譲位した天皇と同じ待遇)となり、内大臣は太政大臣に、夕霧は中納言に昇進した。紅葉の美しい六条院へ、冷泉帝の行幸があった。源氏の異母兄である朱雀院も招き、源氏は華やかにもてなした。
『源氏物語 若菜上』の主な登場人物
光源氏:39~41歳。紫の上やその他の愛妾とともに六条院に住む。
紫の上:31~33歳。源氏の正妻。
女三の宮:13〜16歳。朱雀院の娘。
柏木:23〜26歳。太政大臣(以前の内大臣)の息子。
夕霧:18~20歳。源氏の息子。
玉鬘:25~27歳。髭黒と結婚。以前は養父である源氏に言い寄られていた。
明石の女御:11~13歳。春宮に入内し明石の姫君から女御となる。
『源氏物語 若菜上』のあらすじ
先日の行幸(みゆき・帝の外出)以降、もともと病弱だった朱雀院は体調が優れず、先の短い人生を思って出家する決意をした。しかし、4人いる娘のうち、女三の宮の行く末だけが心配で仕方がない。藤壺(源氏の継母)の腹違いの姉妹である女御と朱雀院の間に生まれた子で、13、4歳くらいであったが、とても幼い様子であった。女三の宮の後ろ盾となる婿候補には兵部卿宮(源氏の弟)、夕霧(源氏の息子)、柏木(太政大臣の息子)を考えたが、皇女を嫁がせる夫としては物足りない。延々と悩み続けた結果、人柄も権力も申し分ない源氏に降嫁を打診した。朱雀院からの頼み事であったが、源氏は最愛の妻である紫の上の立場を考え困惑していた。皇女の降嫁となれば身分の差によって、紫の上の正妻の座は女三の宮に奪われてしまうからだ。
年の瀬になり、女三の宮の裳着が済み出家をした朱雀院を見舞った源氏は、やはり女三の宮のことを改めて頼まれ、朱雀院からの依頼を断ることもできず、また藤壺(源氏の継母、源氏の初恋の相手)の血筋である女三の宮への好き心もあり、思わず引き受けてしまった。紫の上に打ち明けると、思いの外冷静に理解を示した。
年が明け、源氏40歳のお祝いに玉鬘は子供たちを連れてお祝いに六条院を訪れ、長寿を祝う若菜を贈った。
2月、女三の宮が六条院の源氏のもとに輿入れした。紫の上の心中は穏やかではないが、表面上は取り繕い平然と夫を女三の宮のもとに送り出した。婚礼後3日間は新妻のもとに通うしきたりであったが、か細く子供っぽい女三の宮と、幼い日の紫の上を比べても、宮の幼さばかりが目に付き、全てにおいて勝る紫の上のもとを離れがたい。手紙のやり取りも幼稚で、離れて過ごす一晩の間だけでも紫の上が恋しく、皮肉なことに女三の宮降嫁によって源氏の紫の上への愛情は増していた。一方で、源氏は、朱雀院の出家によって身軽になっただろう朧月夜を求め、忍んで逢いに行った。
明石の女御(春宮に入内した明石の姫君)が懐妊し、里下がりをした。女御を見舞うついでに、紫の上は女三の宮を訪ねた。初めて対面した女三の宮はやはりあどけなく、紫の上が幼い女三の宮に話を合わせ、ふたりは打ち解けて語り合った。
翌年3月、明石の女御が男の子を出産した。この一報を聞き、明石の女御が国母となる宿願がかなった明石の入道(明石の女御の祖父)は、最後の手紙を京に送り山深くに入った。尼君(入道の妻)と明石の君は手紙を読んで涙した。
女三の宮に求婚をしていた柏木は、源氏の妻となったことに落胆していた。女三の宮は紫の上に圧倒されているという噂を聞くにつけ、自分だったら寂しい思いはさせないのにと変わらず思いを寄せていた。そんな中、夕霧や柏木たちが六条院で蹴鞠を楽しんでいると、猫が女三の宮がいる部屋の御簾に引っ掛かり、その姿が完全に露わになった。柏木は、思い焦がれた女三の宮の華奢で気品のある姿に魅入られてしまった。